mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

ポップスによるアウトサイダーアート!

Raymond Scott『Manhattan Reseach inc.』


20世紀のアメリカのポピュラーミュージックに大きな功績を残したレイモンド・スコットが自分のスタジオ、「マンハタン・リサーチ」で密かに作り続けた電子音楽が21世紀になって突然公表されたのですが、その質、量ともにちょっと驚くようなものが出てきました。

私は不勉強でレイモンド・スコットの事をあまり詳しく知らないのですが、ちゃんとヒット曲を書きながら、自分で電子楽器を発明して、ほとんど1人で演奏して録音しつづけ、しかも、そのほとんどを世間的に公開しなかった。という点で、ヘンリー・ダーガーが亡くなるまで書き続けたという『非現実の王国で』のようなアウトサイダー・アートとほとんど同じものを感じてしまいます。

レイモンドの伝記的な側面があるほとんどわからないのですけども、彼は、ある時期から、自分の頭の中を駆け巡る妄想を実現するために、お金を稼ぎ、それをつぎ込んで、自分の楽しみのためだけに、電子楽器にのめり込んでいたようにも聞こえます。

 

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自作の楽器(?)の前でご満悦のレイモンド。

 

この辺は事実を詳しく知ること方がいたら大いに訂正してもらいたいのですが、短い曲から比較的長い曲まで70曲を超えるCD2枚にわたる膨大な録音は(もしかしたら、もっとあるのでしょうか?)、彼の日記を垣間見るような、なんだかいけない事をしているような、でも、それは「天才の所業」だから見たい!という、背徳感が快楽に負けていく過程そのものを体験できるのですが、どれもこれも、飛び抜けてポップでモンドでキュートな作品ばかりで、とても昔に作られた音楽とは思えない事に心底驚いてしまいます。

タイトルや曲の長さを見ると、コマーシャル用の曲と思しき曲もありますね。

モーグ博士によるアナログシンセサイザーが1970年に量産される前にこんな事をほとんど独力でやっていたという事実に呆れてしまいます。

ポップスには、時々、1人でなにもかもスタジオでやってしまう天才が現れますが(プリンスもそういう天才の1人でしょう)、レイモンド・スコットは、公表すらしなかった所に、ブライアン・ウィルソンやジャコ・パストリウスを超えるモノを感じますが。

天才Jディラも本作に大いに刺激されたようで、「Lightworks」という曲をサンプリングに使用してます。

あらゆるポップスファンは必聴の作品集だと思います。

一時期廃盤状態となり、入手が困難でしたが、2016年8月頃にはAmazonなどで入手できるようになりました。

 

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オーストラリアから出てきた怪物。

Hiatus Kaiyote『Choose Your Wepon』

 

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たったの4人でやってるのも驚異的です。 

 

オーストラリアからものすごいバンドが出てきたものであります。

私のオーストラリアの印象と言えば、マッドマックス、クロコダイル・ダンディ、そして、AC/DCくらいなもので、他はアンマリよくわかんない。というのが、ホントの所です(笑)。

なので、こんなどこにカテゴライズしたらいいようなバンドが突然出現した時は、とても困りました。

曲の構成がボアダムス。とまでは言わないまでも、およそメジャーでこういう予測不能な曲展開の曲をやっていた人たちはアンマリ聞いたことがないです。

しかも、その曲がプログレではなくて、むしろ、最近のヒップホップやロバート・グラスパーの中心とした今ジャズのリズムがふんだんに入っている事に驚いたんですね。

5連符を基調として、リズムを訛らせる。という発想が、まさかロックバンドを編成の音楽から出てくるとは思いませんでした。

また、起承転結が今ひとつわからんような曲を難なく歌いこなしている風情のヴォーカルが、よく考えてみると驚異的なのだ。

部分部分をとると、エリカ・バドゥのようなオシャレ感があるのですが、全体の曲調がものすごいんで、一体なんなのかわからなくなってきますけども(笑)、ヴォーカルのナイ・パームの歌唱がこのバンドを難解なプログレバンドのような印象から著しく遠ざけているのはたしかで、リズムも曲の構成も凄まじいのに、とっつきにくさが意外とないことがすごいです。

 

タイトルもなんとなく、ヒップホップカルチャーの中にある、カンフーへの畏敬へのパロディみたいな感じではあります(とにかく、アフリカ系アメリカ人は、カンフーやカラテがよ。ものすごく好きなんですよね)。

しかも、このバンド、まだたったの2枚しかアルバム出していないらしく、なんとも末恐ろしいモノを感じる次第です。

雑にミクスチャーロック。と言ってしまえば、それまでなんですけども、にしてもこんなにリズムが異常に発達したロックというのは、ないし、それを軽々と演奏してるのもすごいですよ。

とにかく、今後の活動が楽しみなバンドです。

 

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 アニメオタクっぽいジャケットもよい。

恐るべき子供たち

CRCK/LCKS『CRCK/LCKS』

 

 

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クラックラックス(と読みます)のデビューミニアルバム。

と言っても、30分もあるので、なかなかに聴き応えあり。

メンバーが凄腕ばかりで驚いてしまいますが、ものんくるのリーダーの角田隆太(ベイス)、dCprGにも参加し、ソロアルバム『シャーマン狩り』もリリースする小田朋美(ヴォーカル、キーボード)と、新人バンドとはいえ、頭一つ抜けた存在なのですが、実際に出てきた楽曲は、とにかく圧倒的。

昨年、ハイエイタス・カヨーテというオーストラリアのロックバンドが脚光を浴びましたが、あの展開が読めないいろんなジャンルの独特のミクスチャー感がこのバンドにもあります。

クラックラックスの方が、よりプログレ感があり、かつ、よりロックバンドです。

とにかく、圧倒的なテクニックとセンスがすごいですが、日本のプログレが持つ、とこか田舎モンが必死こいて熱血演奏しているような汗臭さみたいなものがなくて、どこまでもシティポップ然としているのが、すごいですね。

個人的にはフルートが印象的な「いらない」と、5連符の訛りが面白い「スカル」がよかったです。

あんまりJPOPしてくると、どうもよくないというか、そっちには、行ってもらいたくないです。

そういうのは、今更ツマンナイですし、このメンバーでは余裕すぎます。

とにかく、エッジでポップな世界を追求して欲しいものです。

「クラックラックスのテーマ」は、10年前だったら、シングルヒットしたのではないか。

本年の新作では特にオススメです。

 

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衝撃的なデビュー作!

Rage Against The MachineRage Against The Machine

 

90年代に最も衝撃を与えたロックバンドの1つであろう、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンのデビュー作。

ザック・デ・ラ・ローチャのヴォーカルは完全にラップであり、コレを時にはターンテーブルのスクラッチと化して演奏されるトム・モレーロの変態ギター、コレを支えるベイスとドラム。という、鉄壁の構図はすでに完成されており、デビュー作にして恐るべきクオリティを誇る。

 

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現在まで不動の4人。

 

その歌詞というか、完全なラップは、アメリカ社会へのストレートな怒りの表明である事も、アメリカのロックバンドとしてはかなり異色で、ここまで直接的な怒り。というものを、歌詞とサウンドで表明し、かつ、ここまでの売り上げを上げたロックバンドは、恐らくはレイジが初めてであろう。

何しろ、バンド名が「機械(のようなあらゆる組織)への怒り」ですからね。

「Bombtrack」、「Killing in The Name」、「Know Your Enemy」、「Freedom」といった代表曲はこのアルバムに収録されているが、1992年に発表された本作の歌詞の内容は、2016年現在、もっと切実な問題になっているのではないか?

明らかに白人警官による黒人容疑者の射殺をテーマにする「Killing in The Name」、All of Which are American Dream(こんなモンがアメリカカン・ドリームなのか?)の連呼で終わる「Know Your Name」、実際の政治犯の釈放を訴える「Freedom」は、今もって強烈でしょう。

最もパンクなエナジーに満ちた、まさに「怒りの表明」という言葉がピッタリな名作。

ジャケットは南ヴェトナム(アメリカの支援を受けていた軍事政権です)への抗議のための焼身自殺をした僧侶です。

 

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初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。

Date Course Pentagon Royal Garden

『Report from

                   Iron Mountain』

 

『アイアンマウンテン報告』という、伝説の奇書をタイトルとする、デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン(現dCprG)の第1作。

「近々戦争が来る!」という菊地成孔の予感と菊地雅章(名字は同じですが、親戚関係ではありません)『ススト』に収録される、7拍子と4拍子のクロスリズムが基調となる、前代未聞の難曲「circle / line」を完コピしたいという欲求によって結成されたという、大編成ポリリズム・ファンクバンド。

この世界でも稀有なバンドは、菊地のバンドの中でも最長のバンドとなりました。

菊地の予感は、9.11のテロとイラク戦争、アフガン戦争という形でホントになってしまい、現在、世界各地でテロ行為を行う、自称「イスラム国」や、それに勝手に感化された過激主義の温床というなったわけですが、ココでは政治の話しではなく、音楽の話しのみを。

大編成のファンクバンドがポリリズムで観客をいかに踊らせるのか。という発想自体が今もってとてつもなく、一曲目「Catch 22」は有名な戦争文学のタイトルから取られた、DCPRGを代表する曲ですが、全員がバラバラな周期で反復し続ける。しかしそれは聴き手には、まとまった音楽に聴こえる筈だ。という、恐らくはスティーヴ・コウルマンのM-Baseの方法論から着想を得た曲であり、ライヴではドンドンアレンジが変わっていき、全く別の曲に変貌していった曲としても有名です。

現在のdCprGでは、この曲と同じ役割となるのが、「Ronald Reagan」に変わりました。

また、前述した「circle / line」は、今でもライヴの定番曲で毎回必ず演奏されており、『Second Report from Iron Mountain America』でも、ラップを加えて大胆なモデルチェンジをして再録されています。

今や国民的な作曲家となった大友良英が参加していたのですが、この頃、大友、菊地は互いのバンドに在籍しあっていました(菊地はONJQのメンバーでした)。

とにかく、メンバー全員が日本を代表するような腕利きばかりが集まっている、とんでもないバンドで、現在はかなり若返りを図っていますが、ここでの主要なメンバーは残っています。

今の耳だと結構大人しく聴こえますけども、それは単にこのバンドの驚異的なライヴを体験してしまったから。というのも大きいのかもしれません。

現在も本曲のラストを飾る名曲「Mirror Ball」や、ジミヘンでおなじみの「Hey Joe」のアレンジは素晴らしく、いずれも未だに演奏回数は多いです。

要するに、今でもライヴで演奏される定番曲が1番多いのが本作であり、このバンドの原点なのです。

 

 

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モハメド・アリ追悼

James Brown『Star Time』

 

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1991年に発売された、4枚組のボックスで未だに現役の商品。

 

1956年から84年までの録音を年代順に網羅した作品で、コレを聴けばJBについての大枠はわかるというとても優れたボックスで、コレを超える作品は今後も出てこないでしょう。

 

コレに入っていないシングル曲を探したり、ライヴ盤を買えば、JBは十分だと思います。

 

20世紀はさまざまな音楽の天才が出現しましたけども、その中でもJBはトップクラスにいる事は間違いないでしょうし、その彼を知るには、最低限としてこの4枚は聴かなくてはならないでしょう。

 

10代の頃はクラシック一筋でブラックミュージックにほとんど親しんでこなかった私には、彼のやってる事は、正直、サッパリわかりませんでした(笑)。

 

弟が持っていたベスト盤を聴いてみたんですが、なんで同じことをただ繰り返していて、全然展開がないんだコレ(笑)、となんだかわからなかったんです。

まだ、P-Funkのが、ロック的に展開するのでわかりやすかったのですが、JBは何をやってるのがわからなかった。

オイオイ、ギターソロとか弾いてくれよ、スカスカじゃねえかよと(笑)。

 

その極端にミニマルな音楽の良し悪しがサッパリわからなくて、なんでこんな音楽が素晴らしいとか言ってんだろ?とかホントに思ってました(笑)。

 

20代になってから、急にロックを聴くようになって、初めはジミヘンみたいにものすごくノイズがぶっ込まれていて、すさまじいところにシビれてしまいまして、マウンテンとかクリームみたいなハードロックなんかを好んで聴いてましたけども(はづかし〜)、だんだんリズムというもののすごさに気づいてきて。

 

タメが効いてるドラム、バンドをグイグイ引っ張っていくベイスというのがとても気持ちよくなってきて、マキシマムなものばかりを好んでいた私の価値観がガラッと変わってしまいましたね。

 

ハードロックはほとんど売り払ってしまって、改めてJBを聴いたら、コレがとんでもなくいいんですね。

 

ほぼワンコードをバンドが一丸となって、反復し続けることによって生まれる興奮。

 

ホーンやギターですらほとんどソロなし!

 

時々、JBが「カモン、メイシオゥ!カモン!」とかなんとか言って、アルトサックスのメイシオ・パーカーたちに突然ソロを取らせるのですが、基本は全員が一丸となってリズムになっているですね。

 

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昨年上映された彼の伝記映画で、サックスを指差して、「お前ら、これがなんだかわかるか?ドラムだ!全部ドラムなんだよ!」とバンドのメンバーにいうシーンはとても印象的で、こんな発想はジェイムズ・ブラウン以前にはなかったのではないでしょうか。

 

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「グルーヴ」というものが初めて理解できたんでしょうね。

 

アタマではなくて、カラダに染み込んでいったというか。

 

このボックスはデータがとても詳しくて、どこで録音されているのも全部書いてあるのですが、JBは拠点とするスタジオで録音するという発想が皆無で、いいアイディアが思いついたら、すぐにスタジオに行ってあっという間に1曲仕上げてしまう人である事がよくわかり、それはますますラディカルになっていき、アレンジも何も決めずにいきなり本番で一発で録音していると思われるとんでもないものも70年代には見られます。

 

そんなJBのムチャぶりにも応える鉄壁なバンドを従える、ほとんど神がかっているとしか言いようのない扇動的なJBのヴォーカルが絡むこの気持ちのよさ。

 

シャウトのタイミング、声質ともども、これ以上ないというものでしょうね。

 

山下達郎が「私が男性でナンバーワンだと思うヴォーカリストは昔からJB」というの納得です。

 

実際、「ウッ」「ハッ」とか掛け声だけかけている人ではなく、ものすごい歌唱力がありますからね。

 

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ヴォーカルすらリズムというラディカルさですね。

 

コレがライヴだと、もうJB的としか言いようのない圧倒的でタイトなダンスパフォーマンスがつくので、観客はもう興奮のルツボ(笑)!!

 

Youtubeなどをご覧になるとわかりますが、暴動寸前になっているものすらあります。

 

これだけ動き回れるのは、全盛期のモハメド・アリくらいなものでしょう。

 

彼の音楽は良くも悪くもワンマンなので、すべてが「オレ様の世界」という相当なマッチョですが(ライヴでミスをすると一回あたり10ドルの罰金があり、JBはミスをすべて覚えていて、必ずメンバーに払わせていたほどです)、ここまで突き抜けていると、もう、痛快としか言いようがありません。

 

ファンクというジャンルを事実上作ってしまった人であり、黒人音楽初心者の方は、Disc 2、Disc 3、と聴き進めることでJBがどのようにファンクを推し進めて行ったのかがよくわかり、Disc4でそれが次第に衰退に向かった矢先にヒップホップへと橋渡しをするという鮮烈なラストを知ることになります。

 

Disc 1は、まだR&Bの枠内でJBが歌っている頃の演奏が大半で、それが次第にあのJBのスタイルに変貌していく過程を追ったもので、コレはある程度、JBのスタイルが好きになってから聴いても遅くはないと思います(とはいえ、この頃からJBは卓越してますが)。

 

60〜70年代の黒人音楽が劇的に変貌していく中で、その中心にいた人物を知る事は、黒人音楽に興味のある方であれば、誰しも避けては通れない道でありましょうし、彼なくしてはヒップホップはなかったかもしれません(ヒップホップの初期のバックトラックはJBの録音からのサンプリングがとても多いです)。

 

モハメド・アリ、マルカムXと並ぶ時代のアイコンです。

 

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組み合わせの妙ではおっつかない!

Kip Hanrahan

        『Tenderness』


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キップ・ハンラハン

このアルバムが出てもう、25年以上も経つのか。と思うと感慨無量ですね。

私が初めて聴いたキップ・ハンラハン/アメリカン・クラーベのアルバムですが、コレまで聴いてきた音楽とはテイストが相当違っていて、初めは空を掴むような感じでしたが、次第に馴染んできました。

彼のライヴを見た事ある人だったらわかると思いますが、キップは特に演奏してません。

一応、クレジットにはパーカッションとはありますけども、どこまでホントかどうか。

彼の立場はプロデューサー、作詞、作曲で、コレは他の名義でもだいたい同じです。

彼の独特な所は起用するミュージシャンがまずとてもユニークな事です。

ベイスがフェルナンド・ソーンダース。

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長年、ルー・リードと仕事をしている人ですね。

また、大スターのスティングが参加してます。

恐らくものすごく安いギャラで働いているのだと思いますが、自分のアルバムでは絶対に言わない単語を何度も連発してますね。

ココに、ミーターズで有名なレオ・ノセンテリがいて、キップの作品の常連ミュージシャンである、アルフレッド・トリフ(ヴァイオリン)、ロビー・アミーン(ドラムス)、ドン・プューレン(ピアノ)らが絡むという意外性。

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アルフレード・トリフ

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ロビー・アミーン。レバノン人です。

かつて大暴れしていた、テナーサックスの雄、チコ・フリーマンすらいますよ。

この人とこの人を共演させたら面白いのではないか。というのは、ある程度音楽に精通してくると見えてくるものがあると思うのですが、キップの発想は常人では計りがたいです(笑)。

こうやって文章だけにしてしまうと、何ともキワモノ感ばかりが目についてしまうのですが、キップ・ハンラハン作品は、一貫したキップならではのサウンドがありまして、それは盛大かつ熱狂的に鳴り響くパーカッションの嵐であったり、ワザと粗雑に曲をカットしたり(これはゴダールの影響でしょう。キップは若い頃、ゴダールの助手をしてました)、そこにつぶやきともなんとも言えない気だるいヴォイスがかぶっていたり。などなど、明確な音のヴィジョンは彼の中には常にあります。

なんの説明もなく彼のアルバムを聴くと、どこの国のだかわからない、だけども、明確に「都市の音楽」である事を強力に主張している事が伝わってきて、本作もそういうキップの作品です。

こねくり回すようなドン・ピューレンのピアノは、キップの元で最も自由自在に跳ね回り、フリー寸前なのに物悲しい。という全く独特の世界を作っています。

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ドン・ピューレンの突然の死が悼まれる。

亡命政府キューバ人のアルフレード・トリフのヴァイオリンの美しさ。

こういった要素がなぜかキップの中では渾然一体となっていてて、ただただ美しい音楽になっているのがホントに不思議です。

一曲だけ聴いて面白いというタイプの音楽ではないので、そういう点が今日のダウンロード中心の音楽からすると圧倒的に不利なのですが、本作はやはり全部通して聴いていただくのが良いかと思います。

とにかく、オススメします。

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アルバムジャケットが素晴らしいのが、アメリカン・クラーベの特徴でもあります。