70年代ど真ん中!
Rufus featuring
Chaka Khan『Rufusized』
チャカ・カーンの、のびのびとした屈託のないヴォーカルは、明らかに時代が変わったなあ。という事を感じさせますね。
アメリカが暗く沈まざるを得なかったヴェトナム戦争が収束(というか、アメリカがヴェトコンに根を上げたという事ですけど)していく時にこのアルバムが出たというのは、やっぱり大きいですよね。
コレを支えるバンドのメンバーも素晴らしい。
彼女の伸びやかな歌唱にピッタリな軽快さと程よいファンキーさを兼ね備えています。
当時、どういう人々にルーファスが受け入れられていたのかは、よく知らないんですけども、この程よい黒さは、ロックの好きな白人層にも相当ウケたのではないでしょうか。
ギターが相当ロックしてますし、このバンドのまんまブルース・スプリングスティーンが歌ったら、ロックの名盤ができそうです。
アナログ盤全盛期のアメリカのロック/ソウルのど真ん中直球サウンドという事ですね。
私が70年代のアメリカのロック、ソウルで好きなのところは、もう白人と黒人の立て分けが音楽的になくなってきていて、バンドもドンドン人種混成(時には国籍混成もありますね)になっていく所なんですけども、そういう意味でもルーファスはもうど真ん中ですね。
70年代のアメリカのロックやファンク、ソウルを愛好する人で、このアルバムがキライな人は多分皆無でしょう。
キュートな名作!
NRBQ『Tiddly Winks』
昔は「世界で最も過小評価されているロックバンド」とか言われてましたけども、まさか、ロックファンでこのバンドを知らないなんて事はないよね(笑)?
NRBQはいつでもキュートでキャッチーでどこかトホホでホロッとくる音楽を演奏し続けるロックバンドですけども、ビートルズがモンスターに成長せず、イギリスで知る人ぞ知るバンドのまんま今日までやっていたら、案外、NRBQみたいになったかもしれませんね。
現在、音楽を取り巻く環境が劇的に変わってきていますが、なにがどう変わろうと特にアルバムの売り上げが上がりも下がりもせず、ファンが劇的に増えも減りもしないという(逆に言えば、それはそれで驚異的ですけどもね)超然としたあり方は、案外、学ぶところがあるのかもしれません(?)。
本作も特に新しい説明を付け加える必要など全くない、NRBQ印のポップなロックンロールがギュッと詰まったアルバムでありまして、変わった事はやってないんですけども、マンネリ感がないところかやっぱりすごいですよね。
懐かしいのにフレッシュ。というとても不思議な立ち位置の人たちです。
ちなみに、最後の曲は、デイヴィッド・サンボーンのアルバムでカヴァーされてます。
これからもヒットチャートに左右される事なく、マイペースに活動していただける事を願います。
ちなみに、サンボーンのこのアルバムな収録されてます。
コレでようやくマトモなステレオ盤になりました。
The Beatles『Help!』
今更ながら、ビートルズの歴史とかを云々するつもりは毛頭ありませんし、そう言う事には全く疎いです。
ビートルズは、アルバムを聴く。という付き合い方しかしてませんね。
というか、ほとんどのミュージシャンに、私はそうやって接してますね。
2009年にジョージ・マーティンがビートルズの全アルバムのリマスターを見直して、新しいデジタルリマスター版を出した時は、本当に良かったです。
というのも、最初のCDは全体的に音に立体感に欠けていて、なんだか薄っぺらい音なんですよね。
まあ、昔のロックだからこんなもんなのかな。と思い込んでましたけども、このリマスター版は、音の立体感がグッと出てきて、音がとても力強くなりました。
ステレオ版のビートルズはレコードでは大変批判があったようですけども(左右に振り分けただけみたいな無茶な作りでした・笑)、このリマスター版でようやく一応のスタンダードができたのではないでしょうか。
さて、本作を聴いてハッキリわかるのは、もう、勢いでだけでアルバム作りたくなくなって来ているという事でしょうね。
これまでは、レノンとジョージがギター、ポールがベイス、リンゴがドラムという担当は基本変えず、コレに時折ジョージ・マーティンのピアノが入ったりという、とてもシンプルな編成で演奏していました。
しかし、本作は明らかに楽器が増えています。
しかも、楽器をかけもちし始めて、いろいろと音楽をいじりたくなってきています。
それが劇的な効果を示すほどではまだないんですけども、スタジオでジックリと時間をかけてアルバムを制作したい欲求が生まれ始めていながらも、まだ、この頃はそんなに時間が与えられていなかったんですね。
アルバムの制作ペースが今と比べるとものすごく早いんですよね。
まだ、音楽産業が出来上がってない事が原因なのでしょう、彼らですら自転車操業なんですね。
ライヴをやって稼がないといけなかったんでしょう。
そういうかなりキツい状況で作っている割には、相変わらず名曲、名演を繰り出すのが、このバンドすごさなわけですけども、そういうニッチな制作のあり方に、具体的な行動反抗をで示しているのが、さすがという他ありませんね。
私は、ビートルズはむしろ若い人たちに聴いてもらいたいと思ってますので、背伸びをしてモノラルのアナログ盤買わずに、現在流通しているCDを聴く事をまずはオススメいたします。
それからでもモノBox(CDはかなり安く入手できますが)、アナログ盤を買っても全く遅くないです。
モノラルのLPは、ホントに高いですよ(笑)。
裕福な方はご自由に(笑)。
とにかく「いいアルバム」としか言いようがない。
Donald Fagen『Nightfly』
こう政治家の傍若無人を毎日見れられると、ココロが荒んでくるんですけども(政治家の皆さま、ホントに大変だと思いますよ)、そんな皆さまのココロのオエイシスになる事必定の音楽が本作でございます。
スティーリー・ダンの片割れが作ったソロ作ですけども、一説によると、最も制作費がかかったアルバムとかなんとか言われてますが、私は特に調べる根気はないので各人でやってくだい(笑)。
『ガウチョ』で洗練の極致になってしまい、どうにもならなくなって、一旦、そのソングライターユニット(すでにバンドですらなくなっていました)は解散するんですが、案外、早いことソロ作が出ました。
相変わらず、とてつもないメンツを集めた贅沢な作品なのですけども、実際の作品は、『ガウチョ』が行き過ぎてしまった世界をうまく脱却した、リラックスした、いい感じの作品でした。
この、散々カネと時間をかけていい感じの作品を作る。というのは、フェイゲンの一貫した哲学なのでしょう。
大瀧詠一がこれまた行き着くところに行き着いてしまった『each time』以降、一切アルバムを発表せずに亡くなってしまったのは、自分へのハードルが余りにも高すぎたからなのでしょうね。。
フェイゲンは、いい意味で開き直って、あっけらかんと作ったのが、本作の素晴らしいところなのだと思います。
コレができたから、スティーリーダンは再結成し、ソロ作も出し続けるという事が出来たのではないでしょうか。
楽曲もほとんどダンと違わないし別にそんな事どうでもよいハイクオリティだしみたいな図々しさが、ダン名義とソロ名義には未だにあるんですけども(笑)、そういう適当さが(音楽が適当と言ってるんではありませんよ)、仙人のような境地でマイペースに作品を作れるようになれたんでしょうね。
いずれにしても、本作がなかったら、案外、ずっとフェイゲンとベッカーの2人は隠遁生活になっていたのかもしれない、重要作(しかし、リラックスしたいい曲しかない)。
できうれば、アナログ盤をある程度のヴォリュームで聴ける環境で、コーヒーでも飲みながらお聴きくださいませ。
ヒップの極みでございます。
不穏な傑作!
Jazz Dommunisters
『Cupid & Batailles, Dirty Microphone』
うわわわ(笑)。
もうすごいとしか言いようがない。
デビュー作『ドミュニストの誕生』も驚愕の作品ですけども、少し間を置いた本作は、もう全く予想できなかったような作品でありました。
リリックはどれもこれもキワキワすぎて、一切ここには書けませんよ(笑)。
歌舞伎町のケイちゃんと黄金町のカールさんのお話しをラップした「KKKK」、バタイユがリリックを書いたかのような「夜の部分」、60年代の学生運動が盛んだった時代を揶揄するような「反対の賛成」などなど(どこかフェリーニ的です)、リリックの毒々しさがとにかく素晴らしいですね。
コレに対するアーバンでクールネスに満ちたバックトラックの素晴らしさ(大半が菊地の元生徒だそうです)
あまりにも先に進みすぎてしまう強烈な先鋭さが、ほとんどのヒップホップファンをポカン。とさせてしまっているのではないのか?と思われるのですが(リリックに出てくるように、菊地成孔、大谷能生がコンビを組んだ仕事は必ず物議が凄まじく巻き起こります)、とにかく、この賛否両論を巻き起こさざるを得ないエナジーが、なんと、ジャズメンが作り出しているという事実もまた驚愕です。
ヒップホップの作品なのに、どこのコーナーに置いたらいいのかわからない不穏さをたたえた恐るべき傑作。
現在は2 in 1で購入できるので、1950〜60年代のウルフの変遷がよくわかります!
Howlin' Wolf『The Real Folk Blues』『More Folk Blues』(chess)
マディ・ワーターズと並ぶシカゴ・ブルースの巨人。
ものすごい巨漢とダミ声に特徴のあるキャラがとにかく強烈な人でしたが、実はものすごく真面目な人だったみたいです。
本作は、チェスが出していた、まあ、シングルをまとめてアルバムにしましたシリーズなのですが、『More〜』の方が、録音が古いのが適当でよいですね(笑)。
多分、売れ行きが良かったので、じゃあ、昔のやつもまとめて出しちゃおうという、インディーズ・レーベルらしい自転車操業感満点です。
とはいえ、内容はウルフの全盛期を記録しているわけですから、悪いはずなどなく、どちらも素晴らしいです。
しかし、わたしの好みから言いますと、よりワイルドな仕上がりの『More〜』を高く評価します。
ローリング・ストーンズが「ハウリン・ウルフは最高!」みたいな事を言っていて、わざわざロンドンにまで来てもらって、テレビ番組でウルフが歌っているという映像を昔NHKで見た記憶がありまして、観客は10代の女の子ばっかりでとても異様だったのですが(笑)、とにかく、彼らのお陰で、ウルフのイギリスでの知名度は高かったようです。
それはともかく、音域は狭く、ハーモニカのテクニックもそれほどでもない彼が素晴らしいのは、その限られた技巧と表現が的確に結びついているからですよね。
彼のヴォーカルは、余計な事はあんまり言わないというか、そのダミ声でブツリブツリと、魚のアラみたいにブツ切りなんですけども、鍋に入れたらいいダシが猛烈に出てくるというか、そういう味で勝負しているんですよね。
あと、彼にはご存知のように、ヒューバート・サムリンという相棒のギタリストが常にいたというのも、自分の表現したい世界を具体化させるために、よかったのではないでしょうか。
よって、1950〜1960年代前半、つまり、この2枚のアルバムにまたがる録音の頃のウルフはあんまり出来不出来というものがそんなになくて、常にある水準を超えています。
そして、それがありながら、やはり、傑作と言ってよい録音があるわけですね。
そういう所から、彼の仕事の真面目さがすごくよくわかります。
私はその傑作が特に凝縮されているのが、『More〜』なのではないかと思うんです。
演奏はどこか田舎臭くてモタッとしているんですが、ウルフにはこういう演奏の時が合ってると思いますし、ウルフの歌唱もこちらの方が好ましいです。
『The Real〜』は、特に60年代の録音の演奏がキレイすぎるんですね。
バディ・ガイのような凄腕が入って、バックの演奏もとてもうまいんですが、ウルフのヴォーカルまで、なんだか変にキレイなんですね。
なんというか、うまい事作ってやろうという作為を感じてしまいます。
それが60年代のいい録音が助長しますね。
1950年代の録音はチェスもアンマリお金がなかったのでしょう、録音もちょっとよくないんですけども(人工的にエコーをつけたりしてます)、バンド全体が一丸となってウルフのアブナイ世界を表現しているようで、ウルフの綺麗事でない歌いっぷりが素晴らしいんです(一部は、メンフィスのサンレコードでの録音です。要するにエルヴィスが初めて録音したあのレーベルなんですね)。
結局、白人にウケる事でブルースが広まった。という事実があるわけですから、ウルフとしてもこうせざるを得なかった所はあるんでしょうね。。
ともかく、彼のワイルドな世界を味わいたいのなら、是非とも1950年代の録音を聴いてみてくださいね。
ロックにおける贅沢。
Maria Muldaur『Waitress in a Donut Shop』
それにしても参加ミュージシャンの豪華さ!
ベニー・カーター、ハリー・スイーツ・エディスン、レイ・ブラウン、ニック・デカロ、ジェフ・マルダー、エイモス・ギャレット、デイヴィット・グリスマン、ローウェル・ジョージュ、ポール・バターフィールド、デイヴィッド・リンドリ、ジム・ゴードン、リンダ・ロンシュタット、ジェームズ・ブカ、Dr.ジョン.....
もう卒倒しそうなほどのメンバーが参加してますよ(笑)。
曲目もとても変わっていて、ファッツ・ワーラがあるかと思えば、リーバー&ストーラー、アラン・トゥーサンまであるという幅の広さです。
アメリカ音楽の総力が結集した感がありますね。
ザ・バンドやオールマン・ブラザーズの成功は、やはりアメリカのロックシーンに影響を与えたらしく(その先駆として60年代終わり頃にシングルヒットを連発しまくったCCRがありましたね)、60年代はビートルズ、ストーンズといったイギリスのロック勢力にかなり押され気味であったアメリカのロックも(何しろ、ジミ・ヘンドリクスもブレイクしたのは、イギリスのロックバンドとしてです)、自分の足元を見つめ、その良さを示すことで、本家本元である事を示すという事にようやく気がついたんでしょうね。
マリア・マルダーのソロ第1作目から「Midnight in Oasis」がヒットした事で(エイモス・ギャレットの素晴らしいギターソロでも有名です)、制作費がダンマリ確保できたのでしょうか、曲によってはジャズのビックバンドやストリングスまで盛大についた、しかし、40分に満たないというなんとも贅沢な作品となりました。
こういう豪勢さは、後にスティーリー・ダン〜ドナルド・フェイゲンによって更にエスカレートしていくんですけども、その話は置いておきまして、当時はレコードがよく売れてましたから、バカ売れするとは思えないような本作のようなアルバムにもこんな凄腕ばかりが注ぎ込まれたのでしょう。
このアイディアは、プロデューサーのレニー・ワロンカーのものなんでしょうかね。
レニーはライ・クーダー、リトル・フィート、ランディ・ニューマンのアルバムのプロデューサーでもありますから、その可能性がありますね。
それにしても、これだけいろんな音楽を一枚のアルバムにも放り込んでも、マリア・マルダーはすべて余裕でも歌いこなしてしまうところが、すごいです。
個人的には、Sqeeze Me、I'm A Woman、Oh Papaがよかったです。
Oh Papaでは、エイモス・ギャレットとしか言いようのない、夜空を漂うような美しいギターがやはり素晴らしいですね。
Sweetheart、Honey Babe Bluesは悪くないんですが、それぞれダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックス、ライ・クーダーのバージョンの方が素晴らしいと思います。
マリア・マルダーは、やはり70年代が素晴らしく、彼女を語る上では前作と本作は絶対に聴き逃す事のできない贅沢な傑作です。