怖かった
Muddy Waters "The Best of Muddy Waters"(Chess Records)
初めて聴いたのはたしかに大学生の頃だったろうか。
サッパリわからなかったですね。
というか、私、黒人音楽全般がわからんかった。
このマディどころか、ブルースというジャンルを代表しているといってよい本作(デビュー作がベスト盤というのが黒人音楽らしい)も、その頃は、音がスカスカしていて、何がイイんだか。という感じであった。
ただ、誤解してもらいたくないのは、イヤな感じとか、嫌いだとは思わかなかったんですね。
要するに、「聴きどころ」がよくわからなかったんです。
異様なまでに音がスカスカで、ミニマルに反復してるだけで何がおもしろいのかわからなかったわけけですね。
ところが、いろいろな黒人音楽を聴いていくことで、マディよりももう少しわかりやすい形で黒人音楽の魅力、即ち、グルーヴ感が身につくと(これは、身につくという言葉がしっくりきますね)、マディの極端なほどに音の少ない中で行われているブルースが、実は、トンデモなくグルーヴィであることがある時ハタと気づいたんですね。
強烈にグルーヴしているが故に、音が少なくても演奏が一切ダレることがなく、その余りにも過不足なく音が配置されている事に心底驚いてしまったのです。
このアルバムは、「ベスト」とついているように、シングル曲の寄せ集めなのですが、当時のチェスはプロデューサーが最高に切れ味があったのでしょう、寄せ集め感が全く感じられず、曲順にも必然性があって、全編聴いてもまったくダレません。
マディの、決して器用ではなく、ぶっきらぼうな歌い方、サイドのリル・ワルターの天才的な切れ味のハープが、このミニマルな演奏の中であたかも呪術のように聴き手の身体に入ってきて、ちょっと怖いくらいにすごいものがありますね。
ドラムが極端に音が少なくて、ほとんど展開しないのもこわさを増幅させます。
白人のブルースやロックしか聴いてない人には、始めは物足りなく感じるかもしれませんが、黒人音楽が濃厚に持っているタメの美学がわかると、これほど濃密な音楽入ってない事を痛感することでしょう。
ブルースを知る上で絶対に避けられない、世紀の傑作。