mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

たまげた!

Hirth Martinez『Hirth from Earth』

 
これはたまげました。
 
あんまりにもよくて。
 
アメリカ本国では未だ知る人ぞ知る存在なのだそうですが、この天才を一部の人たちとはいえ、このアルバムが出た時からチキンと評価した日本のミュージシャンや評論家に拍手。
 
このアルバムを手に取った人のほとんどは、「Produced and Arrenged by Robbie Robertson」のクレジットに反応したんだと思いますが(私もそうです)、ロビー・ロバートソンの仕事ぶりは実に素晴らしく、「あのザ・バンドのギタリストがこんなモダンな感覚を持ってたのか。」と驚いてしまいます。
 
ライナーノートを見ると、一人でコツコツとデモテープを莫大に作っていたらしく、それが回り回ってロビーのもとに届いたようで、彼は一発でハース・マルティネスの才能を見抜き、デビュー作とは思えない超一流のミュージシャンを用意しての作品となったようです。
 
おそらくですが、ロビーの指示で曲によって、2つのバンドを用意しているんだと思います。
 
それぐらい贅沢なんですね。
 
ザ・バンドは大変な人気がありましたから、彼のワガママがレコード会社に通った。ということなんでしょうね。
 
ハースは当時、全くの無名だったようですから、そんな人がいきなりワーナーからアルバム出すなんて、破格なことであります。
 
にもかかわらず、ハースのヴォーカルには全く気負いがなく、のびのびと歌ってることに驚きますね。
 
アクースティック主体の曲ではシンガー&ソングライター然とした語りかけるような歌い方をして、ファンキーなノリの曲ではDr.ジョンのようなダミ声で歌うという、不思議な芸風ですが、どっちもいい具合に力が抜けていて、うまいですね。
 
そして、特筆すべきは、ハース・マルティネスのソングライティングの素晴らしさでしょうね。
 
サンバ、ジャズ、ファンク、フォーク、ニューオリンズが渾然一体となっていて、実に凝った(しかして凝りまくらず)、コード進行も面白く(しかして凝りまくらず)、メロディーも常に工夫があり(しかして、凝りすぎず)、と、言うなれば趣味の良さの極致。なのであります。
 
恐らくはデモテープで聴いてロビー・ロバートソンは大いに刺激されたのでしょう。
 
彼のミュージシャンとしてのキャリアでも屈指の仕事ぶりを、自分のバンドがあるにもかかわらず、成し遂げてしまっています。
 
とにかく、全曲捨て曲なし。
 
圧倒的なプロデュースに曲が全く埋没しておりません(それが、優秀なプロデュースなのだとも言えますし、それだけ彼の曲を高く評価したと言う事でしょう)。
 
細野晴臣がこのアルバムを絶賛しているそうですが、それも宜なるかな。
 
70年代の細野が追求した、ウェストコーストを基調とした、様々な音楽的探求と見事に重なります。
 
土臭い肌ざわりなのに、音楽の構造がビックリするほどモダンで油断も隙も微塵もないという、70年代のアメリカのロックが到達してしまった1つの極点に本作はあるのではないでしょうか。
 
ウィキペディアで未だにどういう人なのかがほとんど不明。という、この天才の仕事を、悪いことは言いませんから、黙って聴きましょう!
 
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