好きになるとたまらない魅力あり。
David Bowie『Young Americans』
頭をオレンジに染め、タイトなスーツを着たボウイが、アメリカに乗り込んで、なんと、憧れのソウル・ミュージックに挑戦したという作品。
いや、コレ、とても不思議な魅力に満ちた作品ですねえ。
なんていうんでしょうか、非常にクセになる味わいというのか。
ボウイには、それこそたくさんの名作がありますし、それらはもう、散々論じられておりますし、衝撃の遺作も、大いには議論されるでしょうから、私は、この比較的騒がれないアルバムへの愛を語りたいと思います。
とにかく、このアルバムの持つ、何とも言えない違和感です。
普通、違和感。というのは、よくない事だと思うんですけども、本作は、そこがイイんですよ。
バックをつとめるのは、アメリカの一流どころばかり。
要するに、ホンマモンなんですね。
しかし、それにも関わらず、ものすごいニセモノ感があるんですよ。
ボウイのヴォーカルは、グラム・ロック時代のスタイルを呆気なく捨てていますね。
この、本気とニセモノが完全に両立しているという、大変奇妙なバランスが成り立ってしまっているんですよね。
でも、このニセモノ感って、英国のロックが根源的に持っているものですが、ここでのボウイの違和感は尋常ではない。
ボウイはグラム時代は格好こそ、火星からやって来た宇宙人ジギーでしたが、その楽曲は風貌ほど奇妙どころか、ものすごく真っ当でした。
しかし、本作は楽曲やボウイの歌唱が、意図的と言ってよいほど独特のクセがあります。
デイヴィッド・サンボーンのタメのきいたアルト・サックスは、まさにホンモノと言ってよいモノだと思うんですけども、ボウイのニセソウル歌唱と合わさると、何だか彼までマガイモノみたいに聴こえてくるんですよね。
それでいて、ボウイの歌詞は、見事なまでに70年代のアメリカを撃ち抜いています。
タイトル曲に、ビートルズの「A Day In The Life」の一節、"I heard the news today, oh boy"をさりげなく引用して、ヴェトナム戦争後のアメリカの精神的荒廃を歌い上げてますが、コレはホントに見事という他ないです。
サンボーンのアルトとバックヴォーカルとの絡みも素晴らしい。
ボウイはその衝撃的な風貌にばかり言及されるのにウンザリしてしまって、ジギー・スターダストというキャラクターを葬りましたが、その後も音楽はグラム・ロックのスタイルは崩しませんでしたが、それもイヤになってしまったのでしょう。
もっと音楽を聴いてほしい。しかも、真っ当なソウルを模倣するような事はせず、徹底的ニセモノを目指す。という、とてもややこしい屈折が幾重にも入っていて、それがすべて曲にたたみ込まれている点が、特筆すべきだと思いますね。
ここでの歌唱は、ボウイのその後のアルバムでの歌唱の基本となっているのも注目すべきことです。
ここでのプラクティックでできたようなソウルを継承したのが、スタイル・カウンシルであることは言うまでもありません。
アメリカ時代の作品としては、『Station to Station』の方が完成度は高いと思いますが、クセのある味わいは、こっちの方にあるのではないかと思ってます。
ジョン・レノンに敬意を表して「アクロス・ザ・ユニヴァース」をカヴァーしてますが、コレはあまりうまくいってません。
ビートルズの曲は、そのまま素直に歌うのが一番イイと思うのですが、そういう事はボウイが一番苦手な事に思えます。
ラストの「フェイム」は、「"Heroes"」や「Life on Mars」などに匹敵する大名曲。
レノンはいい仕事をしてくれました。
ちなみに、「Right」は隠れ名曲です。