mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

Dr. Johnを知らないなんて事はないよね?

Dr. John『Creole Moon』『N'awlinz: Dis Dat or D'Udda』

 

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2017年現在も現役で旺盛な活動をしている、最早、ニューオリンズの生き証人のような立場となったDr.ジョンですが、2001年という、アメリカが神経症を発症し、そのを原因をイラクやアルカイーダなどのテロ組織のせいにしていたという、地獄の季節に作られた本作は、久々に彼の中に眠る荒々しいエナジーがアルバムに刻印された、なんというか、「元気な中年のアルバム」なのでした。

ある意味、いつもの彼なんですが、バンドの演奏も彼のヴォーカルも、妙に気合が入っていて、90年代に入って少し穏やかな作風になっていた(ただし、中身は濃い)ところを、いい意味で裏切ってくれました。

彼の余りにも様々な要素が混合した作風は、一言で言うのは難しいのですけども、一貫してニューオリンズほ音楽を大切にし、まさに、「ニューオリンズ音楽の親善大使」を務めてきたのは、間違いのないところで、彼なくして細野晴臣大瀧詠一もあり得ませんでしたし、世界じゅうにロックファンにニューオリンズユニークな音楽を伝えた功績は、大変なものがあります。

Dr.のダミ声はとても魅力的で中毒性がありまして、好きになると、トコトン追いかけたくなります。

参加しているミュージシャンはそれほど私は詳しくないのですが、若い世代を起用しているのだと思います(間違ってたらスンマソン)。

ものすごくブルースギターの演奏が耳に残るなあ。と思ったら、サニー・ランドレスでした(笑)。

そりゃいいわけだ!

ベテランでは、ファットヘッド・ニューマン(テナーサックス)、フレッド・ウェズリー(トロンボーン)の名前が見えますね。

Dr.の音楽は、どちらかというと、自分の世界を追求するタイプなのですが、大傑作『Gris Gris』や本作、そして、2012年に出た『Locked Down』のような、時代の空気を絶妙に取り込んだ作品を思い出したように発表するアブないところがあって、そこが魅力なのですが、本作も、「テロとの戦争」という、無謀な戦争が始まってしまったアメリカの空気を彼なりに取り込んだ、いい緊張感がみなぎる作品です。

当時の私はジャズに熱中していて、ほとんどのジャンルの音楽をおいてきぼりにしていたので、このアルバムの存在をしばらく知らなかったのですが、コレはDr. ジョンの代表作の1つと言ってよいアルバムです。

コレに対して、『N'awlinz: Dis Dat or D'Udda』の方は、ストリングスまで加え、豪華なゲストを多数加えた、リラックスした作品で、元の彼に戻っていますね。

リラックス。とはいえ、彼の悲しみはむしろ深まっていて、まるでニューオリンズの葬儀に流れるような調子の歌から始まり、次の曲が、明るい曲になるというのは、ホントにニューオリンズの葬儀の音楽の流し方(行きは悲しく、帰り道は明るい曲になるのがニューオリンズの流儀で、アフリカの葬儀でもしばしば見られる事です)で、あたかもテロや戦争の死者への弔いをしているようなアルバムです。

むしろ、怒りや悲しみは深まっているのでしょう。

この2in1のCDを出したのは、音楽愛好家にとって大変重要なレーベルであるRhikoなのですが、恐らくは、単にお得だから作ったのではなく、この2枚は続けて聴くことに意味があると考えたフシがあります。

音楽は、政治的な暴力を前にして無力です。

しかし、であるからこそ、ラディカルたり得るというのもまた事実ですね。

そういう事を改めて考える次第なのでした。

 

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