mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

快楽的アルバム。

Taj Mahal『Music Fuh Ya'』

 

ああなんて気持ちがいいんだろう。以上感想終わり。

実はコレしかないのである(笑)。

ムガル朝の皇帝が亡き妻のために作った壮麗な廟を芸名にするという、なんとも人を食ったミュージシャン(日本で言ったら、「大阪城」とか「首里城」というブルースメンです。と言ってるようなものですからね・笑)ですが、その出てくる音楽はただただ気持ちいいぐらいしか私には浮かばないのである。

スティール・ギターを抱えてダミ声で歌っているので、一応、ブルーマンではあるんでしょう。


でも、このアルバムは、ブルースというものが南国の太陽によって溶けてしまって、何か違うものが立ち上ってきて、聴き手の耳をマッサージしてくると言いますか。

その南国感は、スティール・ドラムが入っている事によりますが、そこにあの能天気なタージュ・マハルのダミ声が絡むと、全身の筋肉が緩みますね。

音楽にはいろんな事を考えされられる音楽とそういうものを放棄させてしまう音楽があると思うのですが、後者の中で本作は相当な上位にあると思います。

南国への憧れというか、そういうもの自体はアメリカには結構前からあったわけですが、そういうものがロックとかブルースと呼ばれる領域でもやがて表面化してきて、タージュと短期間ですけども、一緒に音楽活動をしていたライ・クーダーなんかも早くからハワイとかメキシコのミュージシャンと共演して、独特な世界を作っていたんですけども、ライの音楽はもうちょっといろんな事が分析的に言えるし、そういう文章はいろんな人が書いているのではないでしょうか。

しかし、彼のことを論じた文章に出くわすことってそんなにないです。

タージュ・マハルには分析する事を放棄させる秘密の香辛料が音楽の中に内蔵しているのかもしれません。

さて我が国にも、70年代に南国の楽園を妄想していた天才がおりました。

ご存知細野晴臣です。

彼の分析などそれこそ腐るほどありますし、首相じゃありませんが、文献を読んでいただきまして(笑)、ココでは本作との兼ね合いで述べていきたいのですが、細野晴臣の妄想は相当な学習の末にアタマの中がパンパンになってしまってもう音楽でやるしかない。というものが漲っていますけども(とはいえ、外観上は彼らしくとても達観してますけども)、タージュはホントにそういう切迫感もないのではないでしょうか(笑)。

あの飄々としたまんま、適宜ミュージシャンを選んで、パッと作ってしまっているというか。

これほどブルース出自のアフリカ系アメリカ人でこんなにあっけらかんとした音楽を作った人はいないのではないのか。というくらいにブラックミュージックの苦悩から遠い音楽に見えます。

細野晴臣は、「日本人がアメリカの音楽に憧れてやっているだけだから、私たちはからっぽなんだ。でもそれでいいんだ」という発言をテレビでしてますけども、そう考えると、タージュ・マハルのあまりの楽しさというのは、全く意味が違っています。

しかし、南国志向で快楽的でユートピアックである点は両者は同じです。

本作の最後は、なんと、「curry」を連呼するだけのファンクというのか、人力テクノというのかわからんような曲なのでけども(笑)、コレって後一歩進んだらYMO日本人がなったかも。とフト妄想してしまうのですが(全体的にシンプルな繰り返しが多いですよね。ユルユルですけども、チャンとブラックミュージックの構造です)。

しかし、実際の彼は南国であるハワイに移住して、マイペースに現在でも音楽活動をしているわけですけども、彼の南国志向は、ホントに住む。というなんとも呆気なく実現させてしまうところが彼を分析する事などバカバカしくてやってられなくなる原因でしょう(笑)。

これに対して、細野晴臣はあのYMOを結成して、いろんな民族音楽の分析をコンピュータを使ってやるという事になっていきます。

両者の優劣とかそういう事がモンダイなのではなくて、こういう快楽的な音楽というのは、どうも見落とされる気がしてならないので、何か少しでも言える事がないのだろうか。と思って書いてみました。

もうちょっと難しい事を言わせてもらうと、彼を通して中南米音楽とアメリカの音楽は切り離して考えるべきではないという、よく考えると当たり前の見落としている事がわかってきたりしますよね。

でなければ、キップ・ハンラハンが自分の作品に彼をゲストに呼ぶなどという事が起こるとは到底思えないです。

快楽的ではありますが、実は意外と深い作品である(笑)という事を指摘しておいて、本稿を終わります。

 

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