ストコフスキー晩年の脅威の名演!
リムスキー=コルサコフ『シェエラザード』
レオポルト・ストコフスキ指揮、
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
早くから指揮棒を持たないで指揮をする人でして、その華麗な動きは晩年まで衰えませんでした。
アメリカで絶大な人気を誇ったストコフスキが晩年に再びステレオ録音で、得意のレパートリーである『シェエラザード』を再び録音しました。
コレの前の録音は、デッカの録音で、1964年にステレオで行われていて、コレがストコフスキらしいカラフルで見事な名演であり、普通はコレを持ってスタジオ録音はやめても何の問題もないと思います。
デッカ盤のジャケット。
しかし、永遠の挑戦者であったストコフスキは、90歳を優に超えた1975年に再びこの曲を録音したんですね。
90歳を超えて指揮する方が最近は増えてきましたが、当時はカザルスくらいしかそんな人はいなかったですから、コレは驚異的な事です。
デッカでの契約で、彼の膨大なレパートリーの中から(ヘタすると、カラヤンよりもレパートリー広かったかも知れませんね)、彼が得意とするところの曲をストコフスキ自身が選択して録音し終わって、RCAと契約しての録音が本録音なのですが、驚く事にデッカの録音と全然違うアプローチなんですよね。
この曲は4楽章に分かれているんですが、ストコフスキは、全く切れ目なく連続して演奏しています。
もしかすると、一発録りしているのではなく、編集でそうしているのかもしれませんけども、少なくとも、ストコフスキーには、切れ目なく演奏する意図は間違いなくあったと思います。
普通、この曲はそうやって演奏せず、楽章ごとに合間を取って演奏します。
この前のデッカでの録音でもそのように演奏しているんですけども、この録音は変わってますね。
ストコフスキという人は、演奏をカットしたり、編曲を加えたり、果は、オーバータビングという、クラシックではほとんど禁じ手みたいな事すら平然とやる人でして、それがコアなクラシックファンには不評でした。
また、『ファンタジア』に出演していたという事とは関係なく、ものすごくカラフルで楽しいオーケストレーションは、クラシックをシリアスになものとしてとらえがちな日本人には、どうにも我慢ならないものがあったのではないかと思います。
当の本人は結構真面目に録音というものを考えていて、その試行錯誤だったんだと思うのですが、いかんせん、楽しいんですよ、彼の芸風は。
それのピークみたいなのが、チャイコフスキーの交響曲第5番のステレオ録音でして、チャイコフスキーの美メロ感覚をとことんまで拡大した、もう極彩色と言って良い名演です。
デッカでの『シェエラザード』も、オケ全体をホントに船のようにユラユラと巧みに揺らして演奏させる中で、ヴァイオリンのソロが歌いまくるという、この上なく視覚に訴えてくる演奏で、『千夜一夜物語』の一場面を曲にしている事を、あたかも、映画のサントラ以上に劇的に演奏する見事な演奏です。
それをこの演奏では、もう少し全体的なトーンは穏やかで、色調がパステルカラーに抑えられています。
が、ここぞというところでは猛烈にアッチェレランドがかかってきて、とてもドラマティックなんですけども、少しも不自然さがないんです。
コンサートでも何度も取り上げられた曲でしょうから、もう完全に自分のものになっている事がわかります。
そしてヴァイオリンソロがモノを言う曲ですけども、ココは、テンポを落としてジックリと聴かせますね。
そこでしばしば楽譜の支持を無視したオーケストレーションのバランスの改変が見られ、他の演奏では聴こえてこない音の強調などが非常に細かく出てきて、とにかく驚いてしまいます。
アンサンブルで敢えて金管を強調したり、する事は、今でも行われますが、ストコフスキーのやり方は、ほとんど現在で言うところのリミックスと言っても良いほどで、それを90歳を過ぎた老大家が行なっている事に真底驚いてしまいます。
この、老成する事を一切拒否し、更に挑戦していく姿勢は、ストコフスキーに否定的な方でも、認めざるを得ないものがあると思います。
とにかく、驚天動地の名演ですので、デッカ盤と合わせて聴く事をオススメします。