現在のブラックネスに多大な影響を与える傑作。
Roberta Frack『Killing Me Softly』(Atlantic)
彼女とドニー・ハサウェイの登場は、黒人音楽がホントに変わってきたんだなあ。と思わせるものがありました。
この2人は、ともにワシントンDCにある名門、ハワード大学を卒業しており、コレまでの黒人ミュージシャンとは明らかに音楽的な志向が変わってきていると思います。
オーティス・レディングやウィルソン・ピケットのような60年代を代表するソウルミュージシャンの持つ、コッテリ感、粘り感が明らかに薄いですね。
でも、完全になくなっているわけではない。
また、キャロル・キングやボブ・ディランと言った、ロックなどの曲も巧みにカヴァーし、アレンジも見事です。
ドニーは、もともと、カーティス・メイフィールドに才能を買われて、アレンジャーとして活躍しているくらいですから、楽理にものすごく明るい人ですね。
ドニー・ハサウェイ。その夭折を惜しむ声は多い。娘のララァもミュージシャンとして高い評価を受けてます。
ロバータもまたハワード大学で音楽を専攻していましたので、これまでの現場で叩き上げてきたような黒人ミュージシャンとは、一線を画します。
本作は各曲に、ドン・セベスキーやエウミール・デオダートなどという、ものすごく豪華なアレンジャーがついていますけども、全体のアレンジはロバータ自身で行われています。
作曲はすべて他の人が行ってます。
タイトル曲はもはや説明不要の大名曲ですけども、フージーズの1996年アルバム『The Score』での素晴らしいカヴァーも必聴です。
ジャニス・イアン、レナード・コーエン、ラルフ・マクドナルドという、いわゆる「黒っぽい」曲を書くような人が全然いないのも面白く、彼女の音楽はもはや、単純に白人/黒人という二項対立ではもはや捉えられなくなっているところが、新しいと感じさせる1番のところですね。
こういう非常に洗練させながらも力強さを失わない彼女のサウンドは、ネオソウルや2010年代のジャズが追求するブラックネスに非常に大きな影響を与えたと思います。
アルバムには、アレンジャー以外のパーソネルが書いていませんが、エリック・ゲイル(ギター)、ロン・カーター(ベイス)、グラディ・テイト(ドラムス)、ラルフ・マクドナルド(パカシュン)が参加していた事が判明してますが、コレはドン・セベスキーがアレンジャーと仕事をしているCTI人脈であると思われます。
ロバータは、ヴォーカルとピアノ、エレピ、アレンジです。
それしても、どこにでも顔を出すロン・カーター(笑)。
プロデューサーは、ローランド・カークのアルバムでプロデューサーをしている事で有名なジョエル・ドーン。
本作が「ローランド・カークに捧ぐ」となっているのは、上記の理由によるものでしょう。
カークはアトランティックでアルバムを出していた事がありますね。