mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

ヴァン・モリソン入門として最適なアルバムにして屈指の名盤!

Van Morrison『Moondance』

 

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近年の御大。キャパの小さい、イギリスの会場でしかライヴをやってくれないのが困りモノです!

 


日本に来日していない、最後の大物ロックミュージシャンと言われるヴァン・モリソンですが(もう、一切海外でライヴをしなくなり、彼を見るためには目玉が飛び出るほど高いチケットをネットで購入し、イギリスで見るしかないです)、余りにも作品が膨大で途方に暮れてしまいますし、彼のアルバムの大半が現在廃盤となり、入手が困難であるという、大変難儀な状況にあるミュージシャンですが、何も聴いたことがない。という方にはまずはコレがオススメです。


ヴァンの人生はかなりの紆余曲折があるようですが、その手の本や雑誌を読むことに余り関心のない私にはそれはどうでもいい事であり、というか、ミュージシャンの事を知りたかったら、まずは作品を聴いて見ることが第一義であり、それ以外の社会的背景などは二義的な問題であるというのが、私の考えです。


ヴァンの音楽にはソウルやジャズと言った、アメリカの音楽からのダイレクトな影響があり、もう一つはアイルランド系イギリス人である自らのルーツを探究するものがあり(彼は北アイルランドベルファスト出身です)、両者はしばしば混交していき、それがヴァンを独自の存在たらしめていると思うのですが、本作は前者の要素が濃厚で、初期のビル・ウィザーズなんかとも比較できるような、70年代の新しいソウルミュージックでもあります。


ただ、ヴァンの歌唱は、野太い熱演型なので、ビルのそれとはかなり違いますが。


ヴァンが来日しないのは、大の飛行機嫌いである事が最大の原因なのですが(同じ理由で亡くなるまで来日する事がなかったのが、アリーサ・フランクリンです)、ヴァンは、ビートルズローリング・ストーンズのような知名度は、彼らとほぼ同世代の大ベテランなのに、全くありません。


ロックファンでも、「ヴァン・モリソン」という名前を全く知らない人は決して少なくないと思います。


1960年代にはゼム(やつら。という意味ですね)のヴォーカリストとして、短期間ですが、ヒットチャートを賑わしてはいた人なので、全くの無名ではないし、ずっとメジャーレーベルと契約し続けている人なんですけども、ソロになってからはアルバムもシングルも100位までにチャートに入るような作品は、本国イギリスでもまことに少ないです(2000年代に入ると、チャート上位にアルバムが入るようになりました)。


しかし、本作は珍しくアルバムがチャートに乗っかりまして(オランダでは最高位9位になりました)、「Crazy Love」は全米チャート100位にすら乗りました。


前作『Astral Weeks』は後にロック史に残る名盤と評価されていますが、売り上げは惨憺たるものです。

 

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ロック史に残る名盤で、最も売れなかったのでは?と思われる『Astral Week』。しかし、一度も廃盤になった事がありません。

 


音楽それ自体は難解というわけではありませんが、かなりとっつきにくいアルバムでして、アイルランドのトラディショナルな音楽とジャズを融合させ、ソウルの唱法で内省的な内容の歌詞を歌うというものは、余りにも時代を先駆けしすぎており、当時のジャズの文脈では評価不能でした。

 

コレに対するの反省があったのかなかったのかは知りませんが、本作はヴァンの作品としてはかなり聴きやすいです。

 

しかも、その聴きやすさは内容が薄くなったからという事ではないというところが素晴らしく、内容は実に濃厚です。


『Astral Weeks』と本作はその後のヴァンの作風を確立した二大傑作ですけども、初心者には圧倒的に本作がオススメです。


とりわけタイトル曲から、「Crazy Love」「Caravan」までの流れはほとんど奇跡的としか言いようがなく、その後の彼のアルバムは、ここでの繰り返しです。


決してとっつきやすいミュージシャンではありませんから、万人に好まれる人ではないと思いますし、それでいいと思うんですけども、一度好きになると、どこまでもついていきたくなる中毒性の強いミュージシャンである事も確かです。


一度で良いので、来日公演を行って欲しいものです!

 

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野太く力強いのに内省的。というありそうで実はほとんどいないスタイルのミュージシャンです。