何度も聴きたくなる。
細野晴臣『Vu Já Dé』(speedster records)
中華街でライヴを行う、近年の細野晴臣。
CD1枚に時間的には収まるんですが、敢えて2枚組にしたようです。
1枚目(約25分)は近年の細野晴臣のライヴでのレパートリーであるカヴァー曲が入っていて、2枚目(約28分)は、古いものは80年代の音源から、2017年までのかなり年代にばらつきのあるオリジナルですが、統一感があります。
細野自身がライナーノーツに書いているように、カヴァーとオリジナルが同居できないので、敢えてわけて作ったのだそうです。
無理やりくっつけずに分離したまま提示してしまうというも、なかなか勇気のいる行為です。
どちらも面白く、噛めば噛むほどに味の出てくる作品集(そんな古めかしい言い方が妙にしっくりきます)ですが、私が気になったのは、その録音の仕方です。
技術的な事はよくわかりませんが、かなりユニークな方法をとっていて、それが独特な奥行きとフィクション感を高めます。
ある楽器の音はワザとこもったような音にしたり、別な楽器はクリアに録って背後に聞こえるようにしたりと、「虚構のリアリティ」にものすごくこだわっています。
もともと彼は、南国への憧れとか妄想が音楽を作っていく原動力の1つになっているように思いますので、その妄想力が音作りにも注がれているのでしょうね。
彼はよく自身のラジオ番組で、「最近の録音はなんであんなに音圧が高いの?耳を刺激しすぎたよね」という趣旨の事をしばしば言ってますが(と同時にモノラル録音におけるものすごい工夫に感心しています)、そういう昨今の高血圧としか言いようのないゴリゴリのサウンド(特にアメリカの録音がものすごい気がしますが)へのアンチテーゼを提示しているものと思います。
刺激を与えるのではなく、まるで耳をマッサージするように作られた演奏は、同時に、ユニークな音の操作を行って、不思議な奥行き感を作りだし(この工夫は、ヘッドフォンで聴くとわからないようにしてますね。ワザとだと思います)、聴き手をいい塩梅にトリップさせます。
細野晴臣は若い頃からものすごく老成した人だと思いますが、ようやく外観と内面が一致してきているといいますか、やっている音楽と外観がやっと一致してきたのが、『HoSoNoVa』、『Heavrnly Music』、そして、本作に言えます。
昨今のCDの売り上げを考えると、本作のシッカリとしたアルバムの作りに、作品を世に残していきたい細野の意志を感じます。
全曲素晴らしいですけど、1枚目で気に入ったのは、アルマンド・トロヴァヨーリ作「El Negro Zumbon(Anna)」、2枚目は「洲崎パラダイス」(川島雄三の名作『洲崎パラダイス・赤信号』からインスパイアされたようです)、「Neko Boogie」、「2355氏、帰る」です。