驚くべき才気!
Jimmy Webb『Words and Music』
若き日のジミー・ウェブ。
彼のアルバムは聴いていたんですよ。
山下達郎の『サンデーソングブック』という長寿番組を聴いていると、名前がよく出てくるんで。
あまりピンとこなかったんですよ。
しかしですね、「こんなのつまらんから売ってしまおう」とも思わなかったんですよ。
何かこの人の魅力に私が気がついてないんだな。と感じたんです。
こういう経験は私の音楽視聴経験で結構ありまして、ヴァン・モリソン『Astral Week』とかリー・コニッツ『Motion』、キース・ジャレット『Standard Live』、マイルズ・デイヴィス『Sorcerer』、『Aghartha』は聴き初めの頃はサッパリわからない作品でした。
ジミー・ウェブもそんな感じだったのですけども、このアルバムを聴いて、この人の魅力がわかったんですね。
ソングライターとして活躍してしつつ、ソロシンガーに転向したという人は60年代末から70年代に多いですけども、ウェブもその中の1人で、コレは1970年に発表された第2作目なんですけども、本人はコレがホントのデビュー作と考えているみたいです。
かのグレン・キャンベルもジミー・ウェブの曲でヒットを出してました。
お世辞にもヴォーカルがうまいとは言えないのですけども、その切実さが声からヒシヒシと伝わってきて、むしろ稚拙さは魅力的です。
クレジットを見ると、演奏の大半はジミー・ウェブとスティーヴ・タケットが行っていて、それ以外がゲスト扱いという感じです(タケットは後にリトル・フィートのメンバーとなります)。
当時、ここまでマルチプレイしている人というのは、スティーヴィ・ワンダのような例外を除けば、かなり珍しいですよね。
当時のロックの隆盛を考えると、ウェブもロックの文脈で理解されてたと思いますけども、ウェブのソングライティングは、軽々とロックを超越している、「アメリカン・フォーク・ポップス」とでもいうべきもので、ものすごく洗練された楽曲の構造を持ちながらも、どこか土臭くて、素朴な味わいがあるという、絶妙な立ち位置が既に確立していて、そういうところが、大瀧詠一や山下達郎などにも少なからず影響を与えているような気がします。
というか、彼らの優れた楽曲を通じて、ジミー・ウェブの素晴らしさがようやくわかってきた。というべきなのでしょう。
A面はシンガーソングライターとしてのウェブの素晴らしさ、B面はプロデューサー、アレンジャーとしての凄さが際立つ作りになっていて、どちらも素晴らしいのですが、「作られれなかった映画の音楽」という三曲からなる組曲が入るなど、バッファロー・スプリングフィールドなどの先行する実験を更に発展させ、あたかもミュージカルのように聴かせ、しかも、コンパクトにまとめるという才能は並々ならぬものを感じます。
残念ながら、ウェブの70-80年代のアルバムはいずれも売り上げが芳しくなく、壮大なミュージカル大作のようなものを作るには至っていませんが。。
ゲストに参加しているスーザン・ウェブ(ジミー・ウェブの妹です)のガラス細工のように繊細なヴォーカルとの掛け合いは、本作の聴きどころでして、アソシエーションの大ヒット曲「Never My Love」を含んだ「Three Songs」では、スーザンをメインヴォーカルにして、ウェブがバッキングに回っている、2分10秒ほどの短い曲は、ため息が出るほど素晴らしいです。
ソロ作がたったの1枚のみのスーザン・ウェブ。ジミー・ウェブの妹です。
「Let It Be Me」、「Never My Love」、「I Wanna Be Free」をマッシュアップして1つの曲にしてしまうという、才気。見事という他ないです。
ちなみに、「Never My Love」はあのジャニーズの全米デビュー曲として準備してされていたものである事が後年明らかになっています。
時代を完全に超越した、途轍もない傑作。
現在、入手がやや困難なようですが、気長に待てば入手はできると思います。