mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

後の作品の絶対的な安定感よりも本作の野心を私は好みます!

山下達郎『SPACY』

 


山下達郎のソロ二作目。

 

山下達郎は日本国民であったら、聴いた事がないであろうミュージシャンである。

 

冬になるとJRのCMでほぼ強制的に彼とは知らずにもう聴いてしまっているのだ。

 

更に言うとこのWham!ジョン・レノン、そして、竹内まりやと並ぶクリスマス曲のニュースタンダード三傑の一つである「クリスマス・イヴ」は当時はあまり省みられない曲だったのだが、山下達郎自身は「コレは絶対に売れる!」という確信があったらしく、結果、その確信は真実となったわけですが、実は本作も当初は現在の評価とは裏腹にそんなにセールスがすごかったわけではないんですね。


ソロデビュー作をなんとニューヨークとロサンジェレスで録音してしまったという、破格のソロデビューだったのですが、余りにも先進的な内容はなかなか理解されなかったのでしょうか、驚くような名手を揃え、山下達郎の才気が爆発した楽曲が揃っていながらも、それに見あった評価とは言い難いものでした(チャート最高位29位)。


まあ、そう言った時代背景は今となってはまあ、いい思い出程度のことでして(笑)、現在はその唖然とするような、圧倒的なクオリティを心ゆくまで楽しめばいいんです。


それにしても、惚れ惚れするような参加ミュージシャンですよね。


佐藤博細野晴臣、村上ポンタという、共演がほとんどないのではないのか?という取り合わせがあったり、まだスタジオミュージシャンとしての知名度くらいしかなかった坂本龍一、作詞やバックコーラスに参加する吉田美奈子などなど、当代これ以上望むべくもないミュージシャンを集結させてしまう、山下達郎という引力ですよね。


佐藤博のピアノと細野晴臣のベイスは私はとりわけひかれました。


ピアノの弾き語りのような曲から膨らましたような「言えなかった言葉を」や「朝の様な夕暮れ」(こちらは曲の途中からヴォーカルの多重録音になる瞬間が痛快です)、そして、「アンブレラ」のような実験的な曲をはじめとして、どれもこれも才気が漲っておりますし、その多くが吉田美奈子が作詞しているのも、面白いですね。

 

ドラムスが、ディアンジェローのような「素敵な午後は」、カーティス・メイフィールドへの敬愛がストレートに表現された「DANCER」も惹かれます。


山下達郎のヴォーカルはまだ未熟さを感じますが、とは言え、当時、これだけアーバンとソウルが同居したシンガーというのはいなかったですし、ここでの未熟さはむしろ魅力的です。


それにしてもどの曲も日本人離れしていて、邦楽聴いている感じが21世紀に聴いても全くしないですね。


何か「普遍的な都市」(そんなもんあるわけがないんですが)があって、そのテーマ曲みたいなんですよね。


単純にいってしまえば、それはこのアルバムの強度が並外れているということなのでしょう。


山下達郎のアルバムのクオリティはどれもこれも信じ難い水準ですが、アルバム全体的に漂っている緊張感と野心は後のアルバムには見られないもので、やはり、本作は彼のアルバムの中での特筆すべきものだと思います。


完成度から言えば、彼の一大ブレイクスルー作『Ride on Time』ですが、己の才気のみを信じて、アメリカでのレコーディング体験を元に作りあげられたこのアルバムを私は偏愛してしまいました。


「クリスマスイブ」でしか山下達郎を知らない方は是非とも一度手に取っていただきたいですね。

 

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