現在は2 in 1で購入できるので、1950〜60年代のウルフの変遷がよくわかります!
Howlin' Wolf『The Real Folk Blues』『More Folk Blues』(chess)
マディ・ワーターズと並ぶシカゴ・ブルースの巨人。
ものすごい巨漢とダミ声に特徴のあるキャラがとにかく強烈な人でしたが、実はものすごく真面目な人だったみたいです。
本作は、チェスが出していた、まあ、シングルをまとめてアルバムにしましたシリーズなのですが、『More〜』の方が、録音が古いのが適当でよいですね(笑)。
多分、売れ行きが良かったので、じゃあ、昔のやつもまとめて出しちゃおうという、インディーズ・レーベルらしい自転車操業感満点です。
とはいえ、内容はウルフの全盛期を記録しているわけですから、悪いはずなどなく、どちらも素晴らしいです。
しかし、わたしの好みから言いますと、よりワイルドな仕上がりの『More〜』を高く評価します。
ローリング・ストーンズが「ハウリン・ウルフは最高!」みたいな事を言っていて、わざわざロンドンにまで来てもらって、テレビ番組でウルフが歌っているという映像を昔NHKで見た記憶がありまして、観客は10代の女の子ばっかりでとても異様だったのですが(笑)、とにかく、彼らのお陰で、ウルフのイギリスでの知名度は高かったようです。
それはともかく、音域は狭く、ハーモニカのテクニックもそれほどでもない彼が素晴らしいのは、その限られた技巧と表現が的確に結びついているからですよね。
彼のヴォーカルは、余計な事はあんまり言わないというか、そのダミ声でブツリブツリと、魚のアラみたいにブツ切りなんですけども、鍋に入れたらいいダシが猛烈に出てくるというか、そういう味で勝負しているんですよね。
あと、彼にはご存知のように、ヒューバート・サムリンという相棒のギタリストが常にいたというのも、自分の表現したい世界を具体化させるために、よかったのではないでしょうか。
よって、1950〜1960年代前半、つまり、この2枚のアルバムにまたがる録音の頃のウルフはあんまり出来不出来というものがそんなになくて、常にある水準を超えています。
そして、それがありながら、やはり、傑作と言ってよい録音があるわけですね。
そういう所から、彼の仕事の真面目さがすごくよくわかります。
私はその傑作が特に凝縮されているのが、『More〜』なのではないかと思うんです。
演奏はどこか田舎臭くてモタッとしているんですが、ウルフにはこういう演奏の時が合ってると思いますし、ウルフの歌唱もこちらの方が好ましいです。
『The Real〜』は、特に60年代の録音の演奏がキレイすぎるんですね。
バディ・ガイのような凄腕が入って、バックの演奏もとてもうまいんですが、ウルフのヴォーカルまで、なんだか変にキレイなんですね。
なんというか、うまい事作ってやろうという作為を感じてしまいます。
それが60年代のいい録音が助長しますね。
1950年代の録音はチェスもアンマリお金がなかったのでしょう、録音もちょっとよくないんですけども(人工的にエコーをつけたりしてます)、バンド全体が一丸となってウルフのアブナイ世界を表現しているようで、ウルフの綺麗事でない歌いっぷりが素晴らしいんです(一部は、メンフィスのサンレコードでの録音です。要するにエルヴィスが初めて録音したあのレーベルなんですね)。
結局、白人にウケる事でブルースが広まった。という事実があるわけですから、ウルフとしてもこうせざるを得なかった所はあるんでしょうね。。
ともかく、彼のワイルドな世界を味わいたいのなら、是非とも1950年代の録音を聴いてみてくださいね。