ヒップホップはネクストレベルに移ったね。
Kendrick Lamar
『To Pimp A Butterfly』
ケンドリク・ラマー
昨年出たヒップホップでは、群を抜いて素晴らしい出来で驚いてしまった。
グラスパーをバックにラップする人は遅かれ早かれ出てくると思ってましたが、目ざといといか(笑)、両者の接近がこれほど早いとは。
これはやはり、インターネットの普及によるものでしょう。
コレまで、「ジャズとヒップホップの融合」という事は、結構早くから試みられてきましたが、その死屍累々にジャズファンは多いに失望し、この事がジャズファンからヒップホップをかなり遠ざけたのではないでしょうか。
コレを打破する端緒を示したロバート・グラスパーの台頭は、ジャズ、ヒップホップ双方に少なからざる影響を与えたと思います。
その前史として、ディアンジェロウなどの優れた作品があったわけですが、コレはまた後ほど。
ジャズとヒップホップがなかなかかみ合わなかったのは、いろんな原因が考えられますが、1つはリズムですよね。
ヒップホップの初期のリズムはJBのトラックから引用していた事からわかるように、モノリズムの4拍子で、ラップもコレにカッチリ乗ってました。
今聴くと80年代のヒップホップは妙にカッチリしていて、なんだかおもしろパフォーマンスに聞こえなくもないですが(笑)、このリズムがキッチリしているというのは、90年代も構造的には大きくは変わりません。
ココに、手打ち特有のユレとかヨレを積極的に取り入れて行ったのが、天才Jディラなのですが、それでも、まだラップは普通に4でとってるんですね。
それがこの数年と言っていいと思いますが、ラップのリズムの取り方が急激に変わってきました。
リズムの訛りやポリリズムが普通のテクニックになってきたんです。
モダンジャズ、即ち、ビバップ以降のジャズのテクニックに、それらは比較的当たり前に入っているのですが(何しろ、開祖と言ってよいチャーリー・パーカーがポリリズムを自在に駆使してソロを取ってます)、ヒップホップはバックにトラックのリズムは一定で、ラップである程度自由な事ができる(口でやっているわけですから、やりやすいですよね)というのが、これまでのヒップホップは基本はコレでした。
しかし、バックトラックが4連で符で取っている所を5連符でラップというスキルを持ったラッパーが現れ(ケンドリック・ラマーもその1人です)、また、バックトラックもリズムが訛ったりするのもの出現しはじめ、要するに、ジャズとヒップホップが技法的に合わせやすくなる下地が出来上がってきたんですね。
コレを察知したケンドリック・ラマーがグラスパー達をアルバムに起用したのは、ある意味必然的なる動きなんですよね。
つまり、ヒップホップはここに至って、初めて構造的にジャジーになったと言えるんですね。
その意味でもこの作品が昨年でたことの歴史的にな意義は大きいし、しかも、ものすごいクオリティのものがいきなりできてしまったというのは、コレに続くのは、なかなか大変ではあるなと思いました。
グラスパー達の生演奏に合わせてラップは予想以上にカッコよく、ヒップホップはまた1つの新しい地平を開いたな。と感じさせます。
リズムのリテラシーがあまりない方には、彼のラップは、無理くりラップを早く口で突っ込んでいるだけに聞こえたり、バックトラックのユレが気色悪いかも知れませんが、結局、コレも慣れの問題で、こういうモノを聴き続けることで、あたかも自転車に乗れるようにやるようにすぐに理解できてしまいます。
どうしてこういう事が起きたのか?というのは、なかなか説明がつきませんが、機材の発達とインタネットというのは絶対にあるでしょうね。
とにかく、2010年代屈指の傑作です。