呪術師が歌うR&R、R&Bが素晴らしい。
T. REX『Electric Warrior』
英国ロックで、ジミヘンと並ぶ、太く短く生き切った、マーク・ボラン率いるT. REXの全盛期のアルバム。
声量も乏しいし、ギターがうまいとは言えないボランが、一時期はデイヴィット・ボウイすらしのいでいたのではないか?という勢いを持っていたのは何だったのかと改めて考えてみると、ボランの黒人音楽の持つ呪術性への理解が卓越していたからに他ならないでしょう。
アフリカの部族社会では、未だに呪術というものが有効で、音楽で病気を治療するという事が行われているようですが(1980年代でも九州ではそういう民間治療がいたようです!)、ボランの素晴らしさは、その卓越したリズム感と、それをものすごく強調した作曲(ワザとドラムとパーカッションの音を大きくミックスしてますね)そして、そこに乗っている、幻惑的というか、多分にボランのドラック体験に基づく詩の世界が組み合わされた、まさに呪術的としかいいようのない世界ですよね。
そこに、あのささやくような呟くような、細かいヴィヴラートのかかったヴォーカルを絶妙に乗せていく事で、独特の陶酔感と高揚感が入り混じったような感覚が生まれます。
コレは、T.REX独自の感覚です。
このプラスティックでできたようなロックンロールは、プリンスにも相当影響を与えたのではないでしょうか。
そして、本作を名作にしているのは、なんといってもプロデューサーのトニー・ヴィスコンティのきらびやかな演出(キラキラとしたストリングス、エコーをかけまくった手拍子、チープなホーンセクション)が、更にT.REXの「紛い物感」を見事なまでに増幅させ、独自のモヤモヤとした呪術性を浮かび上がられております。
次回作『The Slider』とともに永遠に語り継がれていくであろう大名作。