mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

フィル・ラモーンから考える。

Paul Simon『Still Crazy After All These Years』

 

言わずと知れたポール・サイモンの傑作ですが、コレ、プロデューサーに、ポール・サイモンと連名で、フィル・ラモーンの名前がありますね。

 

フィル・ラモーンといえば、主に1970-80年年代に数多くのアルバムのプロデュースやエンジニアとして関わり、多くのグラミー賞を受賞してきましたが、なんと、本作も最優秀アルバム賞を受賞しています。

 

f:id:mclean_chance:20210410194226j:image

2013年に惜しくも亡くなった、フィル・ラモーン。亡くなるまで精力的に仕事に取り組んでいました。


その前後を見ると、フィービー・スノウ『フィービー・スノウ』(1974)ビリー・ジョエルストレンジャー』(1977)というアルバムのプロデューサーなんですよね。

 

f:id:mclean_chance:20210410194525j:image

f:id:mclean_chance:20210410194531j:image


本作を含めた、3作には実はいくつか共通点があります。


1)アルバムのリーダーがシンガー&ソングライターである。


2)ジャズ/フュージョンのミュージシャンを多数起用


3)更に本作には、フィービ・スノウがヴォーカルで参加 etc.


もっと細かく見ていけばいくらでも挙げられますが、ここまで一貫した作りというのは、明らかにフィル・ラモーンが意図したものであったと思います。


この「ジャズメンの起用」の歴史は実は古く、ジャズとボサノヴァの大物が共演した有名作『ゲッツ/ジルベルト』に於いて、フィル・ラモーンはエンジニアとして参加しており、このアルバムの成功を、自身のプロデュース作でも実現させたかったのでしょう、フィービ・スノウのデビュー作では、なんと、ズート・シムズ(ts)、やチャック・イスラエルズ(b)と言ったモダン派だけでなく、大ベテランのテディ・ウィルソン(p)までも起用し、このアルバムは大ヒットして、スノウはグラミー賞の新人賞を取りました。

 

 

f:id:mclean_chance:20210410194356j:image

コレもグラミー賞を受賞した『ゲッツ/ジルベルト』。

 


ここでの成功を受け、本作ではジャズメンだけでなく、マイケル・ブレッカーデイヴィッド・サンボーンリチャード・ティー、ボブ・ジェイムズ、ゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッドなどをと言ったフュージョン・ミュージシャンなどを更に大胆に起用し、更に、引き続きフィル・ウッズ、グレイディ・テイト、エディ・ダニエルズと言った、ジャズメンに加え、ベルギー人のハーモニー奏者トゥーツ・シールマンスまでもが参加し、最早、ロックではなく、かなりのアーバン・ポップスなサウンドになりつつも、ポール・サイモンの素朴なヴォーカルによって、思ったほどAORな音楽には聞こえません。


フィル・ラモーンのプロデュースは、自分のコンセプトの鋳型にはめ込んでいるのではなく、それぞのソロミュージシャンの特質をちゃんと活かした上で行っているのであり、また、ポール・サイモンの個性は、決して埋没してはいません。

 

やはり、フィル・ラモーンは優秀はプロデューサーと言わざるを得ません。


久々に元相方である、アート・ガーファンクルをゲストに招いたり、フィル・ウッズに怒涛のソロを取らせるとか、サービス満点なところもよいですね。


個人的には、この3作の中ではフィービ・スノウが好みですが、どれも優れたアルバムである事は間違いありません。

 

f:id:mclean_chance:20210410194556j:image

あくまでも、ポール・サイモンの世界です。