フィル・ラモーンから考える。
Paul Simon『Still Crazy After All These Years』
言わずと知れたポール・サイモンの傑作ですが、コレ、プロデューサーに、ポール・サイモンと連名で、フィル・ラモーンの名前がありますね。
フィル・ラモーンといえば、主に1970-80年年代に数多くのアルバムのプロデュースやエンジニアとして関わり、多くのグラミー賞を受賞してきましたが、なんと、本作も最優秀アルバム賞を受賞しています。
2013年に惜しくも亡くなった、フィル・ラモーン。亡くなるまで精力的に仕事に取り組んでいました。
その前後を見ると、フィービー・スノウ『フィービー・スノウ』(1974)ビリー・ジョエル『ストレンジャー』(1977)というアルバムのプロデューサーなんですよね。
本作を含めた、3作には実はいくつか共通点があります。
1)アルバムのリーダーがシンガー&ソングライターである。
2)ジャズ/フュージョンのミュージシャンを多数起用
3)更に本作には、フィービ・スノウがヴォーカルで参加 etc.
もっと細かく見ていけばいくらでも挙げられますが、ここまで一貫した作りというのは、明らかにフィル・ラモーンが意図したものであったと思います。
この「ジャズメンの起用」の歴史は実は古く、ジャズとボサノヴァの大物が共演した有名作『ゲッツ/ジルベルト』に於いて、フィル・ラモーンはエンジニアとして参加しており、このアルバムの成功を、自身のプロデュース作でも実現させたかったのでしょう、フィービ・スノウのデビュー作では、なんと、ズート・シムズ(ts)、やチャック・イスラエルズ(b)と言ったモダン派だけでなく、大ベテランのテディ・ウィルソン(p)までも起用し、このアルバムは大ヒットして、スノウはグラミー賞の新人賞を取りました。
コレもグラミー賞を受賞した『ゲッツ/ジルベルト』。
ここでの成功を受け、本作ではジャズメンだけでなく、マイケル・ブレッカー、デイヴィッド・サンボーン、リチャード・ティー、ボブ・ジェイムズ、ゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッドなどをと言ったフュージョン・ミュージシャンなどを更に大胆に起用し、更に、引き続きフィル・ウッズ、グレイディ・テイト、エディ・ダニエルズと言った、ジャズメンに加え、ベルギー人のハーモニー奏者トゥーツ・シールマンスまでもが参加し、最早、ロックではなく、かなりのアーバン・ポップスなサウンドになりつつも、ポール・サイモンの素朴なヴォーカルによって、思ったほどAORな音楽には聞こえません。
フィル・ラモーンのプロデュースは、自分のコンセプトの鋳型にはめ込んでいるのではなく、それぞのソロミュージシャンの特質をちゃんと活かした上で行っているのであり、また、ポール・サイモンの個性は、決して埋没してはいません。
やはり、フィル・ラモーンは優秀はプロデューサーと言わざるを得ません。
久々に元相方である、アート・ガーファンクルをゲストに招いたり、フィル・ウッズに怒涛のソロを取らせるとか、サービス満点なところもよいですね。
個人的には、この3作の中ではフィービ・スノウが好みですが、どれも優れたアルバムである事は間違いありません。
あくまでも、ポール・サイモンの世界です。