mclean-chanceの「鯔背でカフェオーレ」

ジャズ以外の音楽について語るブログです。生暖かく見守ってください。

彼女の見ている射程距離は予想以上に長かったですね。

Joni Mitchell『Blue』(Repriese)


驚いたのですが、このアルバム、『ローリング・ストーンズ』誌の2020年の「歴代最高のアルバム500選」(500枚も選んだら、最高も何もあったものではないのではないだろうか)の第3位に選ばれたんですよ。

 

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若き日のジョニ・ミッチェル

 


ちなみに1位はマーヴィン・ゲイ『What’s Goin’ on』、2位はビーチボーイズ『Pet Sounds』、4位はスティーヴィ・ワンダ『Key of Life』でした。


1970年代のシンガーソングライター勢が高評価なんですね。


モータウンの二大巨人に対しますところのジョニが高順位なのはとても嬉しいですよ、彼女のアルバムは結構持ってますし。

 

にしても、コレがこんなに上なのは、正直、驚きました。


200位くらいにランキングされていればいいんじゃないの?というか、もっとすごいアルバムは他にあるだろうし、というか、ジョニのアルバムは何と言っても、ジャコ・パストリアスと共演した一連の作品こそ素晴らしいんではないのですか?と個人的には思ってしまうのですが、どんなものでしょうか。


と、散々は事を言ってしまいましたけども、本作は初期の彼女の代表作と言ってよい作品です。


ジョニは曲によってギターを弾いたり(この人のリズムギターはホントに心地よい)、ピアノを弾きながら歌っているのですが、何曲かゲストが参加していて、コレが意外と豪華なんですよ。


「All I Want」…ジェイムス・テイラー(ギター)

「Carey」…スティーヴン・スティルス(ベイス、ギター)、ラス・カンケル(パーカッション)「California」…ジェイムス・テイラー(ギター)…スニーキー・ピート(ペダル・スティール・ギター)、ラス・カンケル(パーカッション)

「This Flight Tonight」…スニーキー・ピート(ペダル・スティール・ギター)

「Case of You」…ジェイムス・テイラー(ギター)、ラス・カンケル(パーカッション)

 

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ティーヴン・スティルス

 

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ジェイムス・テイラー


全10曲中、半分にゲストが参加してるんです。


残りはジョニのギターかピアノの弾き語りです。


彼女のソングライティングの実力はもうずば抜けていて、完全にオリジナルですね。


のちの彼女を知っているからというのはどうしてもあるのですが、もっと大きな編成で演奏されているが聴こえてくるんでさよね。


もう彼女の楽想はそういうシンプルな編成に収まり切らないといういいますか。


ですから、後にウェザー・リポートマイケル・ブレッカーが参加していくのは、何も突飛なことではなく、必然であるように思えるんですよね。


そういう過渡的なところを『ローリング・ストーンズ』誌は高く評価したんでしょうね。


他は完成度の高いものが上位ではあるんですが。


私が楽しく聴けるのは、やはり、「Carey」や「California」「This Flight Tonight」のようなゲストの多い曲ですね。


ちなみに、ベッカ・スティーヴンスなどの現在のジャズヴォーカルに多大な影響を与えてもいるんですよね。


この辺が彼女の音楽性の懐の深さです。

 

大病をしてしまい、もう音楽活動は難しそうなのが、残念ですね。。


ところで、かの大天才プリンスが彼女の音楽が大好きで、最近の未発表音源で明らかになったんですが、ジョニのために曲すら作っていたんですね。

 

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プリンスとジョニ。

 


結局、ジョニは丁重にお断りしたようなのですが。

 

プリンスの楽曲には彼女の影響はほとんど感じないですけども、好き嫌いと表現というものは必ずしも直接には結びつかないものなのでしょう。余談でした。

 

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2020年はこんな音楽を聴いてました(ごくごく一部です)

2020年ジャズ以外はこんなのを聴いてました(同不順、新作旧作の区別もなし)。

 

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レビューと重なるものもありますけども、思いつくままに並べてみただけです。

 

意外とまとまりがありますね。

 

ブラックミュージック、とりわけ、ヒップホップあんまり聴いてなかったですが、クラシックで長年入手できなかった、ブルーノ・ワルターとヨーゼフ・シゲティ、ジャック・ティボーのCDが相次いで手に入ったのはとても嬉しかったです(ここにはあげませんでしたが)。

 

新作が全然ないですね。やむを得ないです。

 

 


山下達郎『SPACY』

The City『Now That Everything’s been Said』

Hall & Oates『Abandoned Lunchonette』

James Blake『James Blake』

King Crimson『Red』

Valery Gergiev / Mairinsky Theatre Orch.『Shostakovich Symphony no.15』

弘田三枝子『ミコちゃんのヒット・キット・パレード』

同『弘田三枝子スタンダードを歌う』

細野晴臣『Heavenly Music』

太田裕美『心が風邪をひいた日』

Cardi B『Invasion of Privacy』

Ivo Pogorelich『Essentials』

Ian Dury & The Blockheads『Mr. Love Pants』

Gangbe Brass Band『Go Slow to Lagos』

 

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後の作品の絶対的な安定感よりも本作の野心を私は好みます!

山下達郎『SPACY』

 


山下達郎のソロ二作目。

 

山下達郎は日本国民であったら、聴いた事がないであろうミュージシャンである。

 

冬になるとJRのCMでほぼ強制的に彼とは知らずにもう聴いてしまっているのだ。

 

更に言うとこのWham!ジョン・レノン、そして、竹内まりやと並ぶクリスマス曲のニュースタンダード三傑の一つである「クリスマス・イヴ」は当時はあまり省みられない曲だったのだが、山下達郎自身は「コレは絶対に売れる!」という確信があったらしく、結果、その確信は真実となったわけですが、実は本作も当初は現在の評価とは裏腹にそんなにセールスがすごかったわけではないんですね。


ソロデビュー作をなんとニューヨークとロサンジェレスで録音してしまったという、破格のソロデビューだったのですが、余りにも先進的な内容はなかなか理解されなかったのでしょうか、驚くような名手を揃え、山下達郎の才気が爆発した楽曲が揃っていながらも、それに見あった評価とは言い難いものでした(チャート最高位29位)。


まあ、そう言った時代背景は今となってはまあ、いい思い出程度のことでして(笑)、現在はその唖然とするような、圧倒的なクオリティを心ゆくまで楽しめばいいんです。


それにしても、惚れ惚れするような参加ミュージシャンですよね。


佐藤博細野晴臣、村上ポンタという、共演がほとんどないのではないのか?という取り合わせがあったり、まだスタジオミュージシャンとしての知名度くらいしかなかった坂本龍一、作詞やバックコーラスに参加する吉田美奈子などなど、当代これ以上望むべくもないミュージシャンを集結させてしまう、山下達郎という引力ですよね。


佐藤博のピアノと細野晴臣のベイスは私はとりわけひかれました。


ピアノの弾き語りのような曲から膨らましたような「言えなかった言葉を」や「朝の様な夕暮れ」(こちらは曲の途中からヴォーカルの多重録音になる瞬間が痛快です)、そして、「アンブレラ」のような実験的な曲をはじめとして、どれもこれも才気が漲っておりますし、その多くが吉田美奈子が作詞しているのも、面白いですね。

 

ドラムスが、ディアンジェローのような「素敵な午後は」、カーティス・メイフィールドへの敬愛がストレートに表現された「DANCER」も惹かれます。


山下達郎のヴォーカルはまだ未熟さを感じますが、とは言え、当時、これだけアーバンとソウルが同居したシンガーというのはいなかったですし、ここでの未熟さはむしろ魅力的です。


それにしてもどの曲も日本人離れしていて、邦楽聴いている感じが21世紀に聴いても全くしないですね。


何か「普遍的な都市」(そんなもんあるわけがないんですが)があって、そのテーマ曲みたいなんですよね。


単純にいってしまえば、それはこのアルバムの強度が並外れているということなのでしょう。


山下達郎のアルバムのクオリティはどれもこれも信じ難い水準ですが、アルバム全体的に漂っている緊張感と野心は後のアルバムには見られないもので、やはり、本作は彼のアルバムの中での特筆すべきものだと思います。


完成度から言えば、彼の一大ブレイクスルー作『Ride on Time』ですが、己の才気のみを信じて、アメリカでのレコーディング体験を元に作りあげられたこのアルバムを私は偏愛してしまいました。


「クリスマスイブ」でしか山下達郎を知らない方は是非とも一度手に取っていただきたいですね。

 

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ディレクターズ・カットはむしろ曲数を減らしていくのが正しいのではないかと。

The Beatles『Past Masters』

 

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今更説明不要の伝説の4人です。

 


ビートルズはシングル盤を結構アルバムに収録してません。

デビューして数年は、マーケットがイギリスしかないんで、実はそんなに儲かってません。

 


なので、シャカリキにライヴをやり(イギリスでのライヴは当時は安く、現在で言えば、2000円もあれば、ビートルズストーンズは聴けました)、その合間にシングル盤を作るという、まあ要するに自転車操業でした。

 


ですから、ビートルズの初期は驚くほどギャラが安かったそうです。

 


この辺りは当時のイギリスのロックバンドは全部そうでした。

 


で、ビートルズのマネージメントたちが考えたのが、アメリカという巨大市場です。

 


アメリカではロックンロールが、呆気なく自己崩壊してくれたので、ヒットチャートはまたもとの平穏を取り戻していましたが、そこを狙い撃ちし、コレが大成功し、イギリスの大侵略が始まり、アメリカのヒットチャートは激変し、音楽業界全体に及ぶ大変革が起きてしまった事はもはや歴史的事実です。

 


さて、そんな自転車操業時代から、スタジオ引きこもり時代、そして、メンバー同士のギクシャクからの解散までのアルバム未収録シングルを含めたシングル曲ですが、まあ収録されなくてもまあいいかというのもあるんですけども、コレは入っていないとダメでしょう!といのが数曲ありまして、アルバム持っているだけだとやっぱり満足出来ないんです。

 


もともと、vol.1,2という形で出たんですが、現在は、CD二枚組の形でmastersというタイトルになってます。

 


で、私は明らかに散漫なので、CD2枚を通して聴く必要はないな。と思い、いらない曲を容赦なくカットしてみますと、アルバム1枚分にキレイに収まりました。

 


日本人が好きであろう、Hey JudeとLet It Beはダラケるのでカットしたのが勝因でしょう(抗議は受け付けません)。

 


This Boy、Rain、Revolutionはビートルズの中でも名曲であるので、絶対に外せませんね。

 


特にRevolutionは、レノンの政治的ポジションは意外にも保守である事が伺える、ウィズダムを感じる名曲ですね。

 


コレをホワイトアルバムのしょうもないサウンドコラージュ版と差し替えると、俄然完成度が上がると思うんですが、どんなものでしょうか、サー・ポール。

 


という事で、私のパスト・マスターズはこうなりました。

 


こういう編集が簡便にできるのがデジタル技術のいいところですね。

 


1.Love Me Do

2.She Loves You

3.From Me to You

4.I Feel Fine

5.This Boy

6.Day Tripper

7.Paperback Writer

8.Rain

9.Get Back

10.Revolution

11.Across The Universe

12.Lady Madonna

13.You Know My Name

 

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売り上げと内容が一致していた時代の傑作

Carly Simon『No Secret』

 


1970年台のアメリカSSWのアルバムの特徴は、とにかく参加ミュージシャンの豪華さが尋常ではない所ですね。

 


このアルバムはカーリー・サイモンのアルバムとしては一番売れたのだと思いますが、ゲストがすごいですよ。

 


ミック・ジャガーローウェル・ジョージ、ポール&リンダ・マカートニー、ジェームズ・テイラービル・ペイン、ニッキー・ホプキンス、クラウス・ヴアマン、ボビー・キーズ、ジム・ケルトナーなどなど、英米を代表するミュージシャンがてんこ盛りで、アレンジにポール・バックマスターまで参加ですよ。

 


制作費が人件費だけですごい(笑)。

 


まあ、ものすごく売れたので、十二分に採算取れてますけども、この手の作品はすべて本作みたいに売れたわけではないです。

 


ボビー・チャールズやジョン・セバスチャン、マリア・マルドアなんかはどう考えても売れていたとは思えないんですが、まあ、それ以外のロックアルバムがバカみたいに売れていたからレコード会社としてはよかったのでしょう。

 


ジョニ・ミッチェルの一連のジャコと作ったアルバムなんて、どれもチャートを賑わしてないのに続々と作られてましたから、業界がいかに潤っていていたかという事なんでしょう。

 


と、なんだかイヤらしい銭勘定で始まってますけども、そんな事は本作の素晴らしさとは何の関係もないですよ(笑)。

 


カーリー・サイモンの嫌味のない素直な歌い方はスッとココロに染み渡ります。

 


もう、それで本作のクオリティは補償されているんですが、前述の信じがたいメンツのサポートが彼女の個性と見事に合致し、見事なアルバムに仕上がっております。

 


捨て曲は全くないですが、個人的には、「You’re So Vain」ですね。

 


ミック・ジャガーがハッキリとそれとわかるバックコーラスで参加してます。

 


売り上げと内容がちゃんと一致する、幸せな時代の音楽を是非ともお楽しみください。

 

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ファンクミュージックの挽歌。

WAR『Why Can’t We be Friends』

 

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当時のウォーのメンバー。

 


1970年代はファンクミュージックの黄金期であり、前回紹介したEWFもファンクの要素が色濃い大編成バンドでしたが、ウォーもこの時代を代表するバンドで、アースほどではないにしても大編成のファンクバンドでした。


もともとは、もともとアニマルズのヴォーカルであったエリック・バードンを中心に結成されたのですが、バードンから離脱し、特定のヴォーカルを立てないスタイルを確立します。


このバンドの特徴は、ファンクバンドでありながら、ラテン音楽の要素が色濃く、メンバーのほとんどがパカシュン奏者でもあることと、ハーモニカ奏者のオスカー・リーがいたことです。


オスカー・リーは、デンマークコペンハーゲン出身なのですが、そのファンキーでソウルフルな演奏だけ聴くと、とてもデンマーク人とは思えないですね。

 

本作でのリーのハーモニカは、ファンキーな側面は影を潜め、非常にメロウですね。


コレはアルバム全体にも言えるのですが、名作『世界はゲットーだ』のようなファンキーさよりも、ビターさ、重苦しさが強調されていて、長い長いヴェトナム戦争がようやく講和条約によって集結し、アメリカは膨大な人員と軍事費を投入しつつも、北ヴェトナムによる国家統一を阻むことができなかった、なんとも言えない虚しさが漂う頃をそのま反映したような作品です。


しかし、その重苦しさを救っているのが、ウォーが持っているラテン音楽の要素でしょうね。


また、スローナンバーにおけるリー・オスカーのしみじみとした味わいをもつハーモニカの素晴らしさでしょう。


タイトル曲「どうして私たちは友だちになれないのか?」は、分断の深まる現在こそ、ますます重要性が増しているのではないでしょうか。


「ロー・ライダー」はそんな中でホッとひと息つける名曲です。

 

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初期のEWFのライヴの凄さを記録したアルバム!

Earth,Wind & Fire『Gratitude』(Columbia)

 

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ライヴではこれよりも更に多くなるEWF。

 

 

前作の大ヒットを受けて、コロンビアから「早く新作を!」と急かされたのですが、レコ発ツアーで忙しく、制作にかける時間がなかったため、ライヴにスタジオ録音をくっつけるという変則的な形で発表されたアルバム。


裏事情はともかく、絶好調のEWFのライヴであるわけですから、悪いはずなどありません。


観客の声が入ってますが、当時からEWFの観客数はものすごいですなあ。


ディスコサウンド化してからが一般的な認知度は高いと思いますけども、もうすでにとてつもなかった事がわかります。


それにしても、スタジオ録音の素晴らしさは今更いうまでもないですけども、ライヴでの演奏能力の高さは相当なもので、そのすごさがちゃんとアルバムの中にもしっかりと入っているのがこのアルバム聴いてるとよくわかりますねえ。


素晴らしいバックコーラスやホーンセクションの演奏能力の高さ、モーリス・ワイトとフィリップ・ベイリーのツインヴォーカルこの魅力などなど、この大編成バンドのウリはたくさんありますけども、私はこのライヴを聴いて、決して派手な事はしていないのに、ものすごく耳に残る、ヴァーダイン・ワイトのベイスが良かったです。


LPで言うところのD面がスタジオ録音なのですけども、これがまたよくて、特に、「Can’t Hide Love」は彼らの代表曲の1つと言ってよい名曲だと思います。


まずは、前作『That’s The Way of The World』をよく聴いてから本作を聴くとなお良いでしょう。


私個人はディスコサウンド化する前よりも、この頃のEWFが好ましいです(超名曲「September」は別です!)。

 

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こちらが前作。『暗黒への挑戦』という謎の邦題がついていました。

 

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ここで一区切りをつけ、ポップ化を行い、空前の大ヒットを連発していきます。「September」は彼らの最高傑作の一つ。